結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
理仁さんの温かい手が頬に触れた瞬間、心に纏っていた鎧が溶かされた。

途端にじんわりと涙がにじみ、鼻がつんと痛む。

本当は感情を思い切り外に出してしまいたかった。

杏花が言うことを聞かなかったら、声を大きくして叱ったっていい。でもそうしないのは、杏花のためというよりは自分のため。

母親として杏花を叱るだけの自信がなかったのかもしれない。杏花に泣かれたくなかったのかも。

こちらが泣きそうになっていることに気づき、ダメ!と強く目を瞑る。

だが、一度気づいてしまった本心に見て見ぬふりをするのは難しい。

心の隙間からエゴが覗いている。泣きたい、怒りたい、笑いたいという、すごく原始的な欲求が。

「パパー」

難しい話に飽きたのだろう、杏花が理仁さんの服を引っ張った。

「ママのとっとくいーむは?」

そう言って理仁さんを見上げる杏花の顔は、自分が食べたいと言っている。

「そうだった。ママのソフトクリーム、食べに行かなきゃ」 

「ママ、しゅっぱちゅー!」

杏花が私の手を引っ張って駆け出す。

「杏花、あっちだよ!」

理仁さんの声に従って、杏花がくるくると軌道を変える。私は振り回されるようにソフトクリームワゴンへ辿り着いた。

ワゴンには色とりどりのソフトクリームの写真が貼られている。

「杏花はバニラね」
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