結ばれてはいけない御曹司に一途な想いを貫かれ、秘密のベビーごと溺愛されています
「……話って」
「今日気づいたんだけれど、杏花のこめかみに小さなほくろがあるよな」
私はぱちりと目を瞬く。たしかに、耳の手前あたりにすごく小さなほくろがあるのだけれど。
「髪に隠れているのに、よく気づきましたね」
「気づいたのはたまたまだが……驚いた。俺も同じ位置にほくろがあるから」
え、と私は驚き立ち上がる。
洗い物をする彼の横に立って、そっと耳のところにある髪をかき上げた。
彼の言う通り、杏花とまったく同じところにほくろがあって、私は言葉を失う。
ほくろだけじゃない。顔立ちも、髪質も、杏花は理仁さんにそっくりだ。成長するに従ってさらに似てくるだろう。
「遺伝って、すごいな」
本当ね、と言いかけて慌てて口もとを覆う。これでは、杏花の父親が理仁さんだと白状したようなものだ。
「……偶然ですね」
白々しくごまかして、再び畳に腰を下ろす。
黙々とお弁当を洗っていた理仁さんだったが、しばらくすると、ゆっくりと口を開いた。
「祖父は俺と良家の令嬢を結婚させようとしていたんだが、俺は拒んだ。菫花と出会ったあの日から、他の女性と結婚しようと思ったことは一度もない」