双子を極秘出産したら、エリート外科医の容赦ない溺愛に包まれました
山田先生の部分にどう答えていいかがわからずに曖昧に謝る。

辻が笑って首を振った。

「謝ることじゃないけどね。山田先生、谷本さん可愛いなーなんておっしゃってて……。もちろんセクハラなんてことにならないように、私しっかり見張ってるよ」

戯けてそんなことを言う辻に、葵は思わず笑みを浮かべた。

新卒からこの病院に勤めている彼女は、しっかり者で皆に頼りにされている。山田のような若い医師も例外ではないのだろう。

「ふふふ、辻さんが味方なら安心です」

葵が言うと彼女はにっこりとする。

でもすぐに、なにかを思い出したように心配顔になった。
「セクハラで思い出したけど、谷本さん、あっちの方は大丈夫? 今日もまた来てたんでしょう?」

少しぼかした言い回しだが、なんのことかはすぐにわかる。

葵は無言で頷いた。

ここのところ葵にしつこくつきまとっている若い男性患者がいるのである。

もともとは入院患者だった人で、その頃は愛想のいい普通の人という印象だった。

退院後に、親切にしてもらったと言って葵にお礼を持って挨拶にきたのが始まりで、以来ちょくちょく手土産片手にやってくる。

それだけなら断ることもできるのだが、まだ通院が必要な病状だからやっかいだ。

本当に検査のために来院してるのだと言われたら来ないでくださいとは言えない。

でも葵の姿を探してはあれこれと話しかけてきて、プライベートな情報を引き出そうとするのが気持ち悪かった。

「あんまりしつこいようなら看護師長に相談した方がいいよ。私から見ても明らかにおかしいから。……あんなに何回も来るなんて気持ち悪いよ」

辻が、やや乱暴な言葉を使う。
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