※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***


 最初の獲物は、ダミアンの領地で暮らしているトミーというしがない商人だった。
 小麦色の肌に茶色の短髪。パッと見普通の好青年だ。


「アイナよ、外面に騙されるな。この男は俺に納めるべき金をちょろまかし、闇取引にも手を染めている。女遊びも激しく、碌な男ではない」

「――――それは良かった。善良な人間を堕とすのは忍びないもの」


 応えつつ、あたしは小さくため息をつく。
 まあ、悪いことをしている人間だから何をしても良いってわけじゃないけど、少なくとも気分は違うもの。

 建物の陰に隠れつつ、あたしたちはターゲットを覗き見た。


「それで? 堕とすって具体的に何をすれば良いの?」

「相手を屈服させるためには、惚れさせるのが一番。当然口説き落とすのだ」

「は? あたしが?」


 あたしは思わず笑ってしまった。
 自慢じゃないけど、容姿には大して自信はない。中の上か、良くて上の下というところ。先日メアリーにも『魅力がない』と貶められたし、正直あたしには無理だと思う。


「無理じゃない、やれ! 俺が言うことは絶対だ」


 ダミアンはそう言って、あたしのお尻を蹴り飛ばす。


「痛っ! ちょっと、ダミアン! ……っと」


 勢い良すぎ!
 あたしはいつの間にか、ターゲットであるトミーの目の前に躍り出ていた。


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