※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
(どうしよう。まだ心の準備が出来てないのに!)


 半ばパニックに陥りつつ、あたしは呆然と獲物を見上げる。

 この人を口説く? 一体、どうやって?
 何をすれば良いの? 何を言えばいいの?
 いつの間にかダミアンの姿は消えているし、一体どうしたら……。


「大丈夫かい、君? このへんじゃ見ない顔だね」


 戸惑うあたしに、トミーは手を差し伸べてきた。
 どうやらダミアンの言う通り、この男、相当な女好きらしい。
 助け起こすふりをして、ベタベタと腰を触りつつ、下心満載の顔つきをしている。下卑た笑み。だけど、商人だけあって金は持っていそうだし、顔はまあまあだから、騙される女性も多いんだろうな。


「すみません、転んでしまって……ありがとうございます。最近越してきましたの」


 我ながら気持ち悪い口調。上品なふりをして、猫をかぶるのはすごく気持ち悪い。
 だけどこの男、清純な女のほうが好きそうなんだもの。

 ダミアンも、そうと分かっていたからあたしに白いドレスを着せたんだろうし。レースとかフリルとか、正直あんまり性に合わないんだけど。


「そうか。だったら俺がこの街を案内してあげよう。その方が色々と安心だろう?」

「まぁ、よろしいのですか? そうしていただけると、とても助かりますわ。是非、お願いいたします」



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