※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***



 次にダミアンがターゲットに指定してきたのは、デーモン・ロズウェルという侯爵だった。


「あの男は忌まわしい。俺の政敵というやつだ」

「――――政敵ねぇ」


 王都にも殆ど顔を出していないし、国政に興味なんて無いくせに――――そう思っていたら、ダミアンはあたしの頭をガシッと掴んだ。


「なにか文句があるのか?」

「ない! ないです! 痛いから止めて!」

「分かればよろしい。
ロズウェルは最近事業に失敗したらしく、多額の借金を背負っている。その割を食う形で、奴の領地は酷い状態で放置されており、その惨状は目に余るそうだ。
しかし、この男は大層な見栄っ張りでな。今でも日毎夜会に繰り出し、享楽にふけっているらしい」

「そいつはまた……悪魔よりも悪魔のような男ねぇ」


 自分だけが苦しむならまだしも、他人に迷惑をかけるのはいただけない。ダミアンは悪魔でサディストだけど、関係ない人は巻き込まないし、領地経営だけはきっちりしているもん。


「と、いうわけでアイナ。あの男を堕としにいくぞ」

「――――了解。
だけど、今回のターゲットは、トミーみたいに簡単には行かないんじゃない? 遠方の領地に住んでいるし、さすがにたった一回会ったぐらいじゃ堕とせないんじゃ……」

「お前は俺の話を聞いていたのか?
あいつは大の社交好きだ。今は折よく社交シーズン。奴は王都に滞在し、毎日何処かの夜会に出かけている。今が完全に好機だろう?」

「ああ、なるほど」


 つまり、あたし達も王都に出向き、ロズウェルと接触を持つということらしい。

 行くぞ、と手を捕まれ目を瞑る。
 次に目を開けたときには、先程までとよく似た――――けれど別の屋敷の室内に居た。


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