※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
 その夜以降、あたしはロズウェルの現れる夜会に出席し、似たようなやり取りを繰り返した。

 夜毎、彼のアプローチは強くなっていく。
 あたしはあたしで、靡きそうで靡かない――――そんな女性を演じていた。


「なぁ、そろそろ良いだろう? 一曲ぐらい、私と踊ってくれよ」

「そうですわねぇ……」

(嫌よ。どうせ踊るだけじゃ満足しない癖に)


 この男と踊るなんて、一生、絶対、お断りだ。


「ほら、今夜は君のためにプレゼントを持ってきたんだ」


 そう言って彼はあたしの胸に、でっかいピンクダイヤのブローチを付ける。


「まぁ素敵! ロズウェルさまは大層な資産家でいらっしゃいますのね」

「ハハ! この程度で資産家だなんて――――もうすぐ私は、もっと大きな資産を手に入れる予定だからね。このぐらい安いもんだよ」

(資産――――借金まみれのこの男が一体どうやって?)


 怪訝に思いつつも、あたしは惚れ惚れとした表情を作り上げる。


「素敵! 奥様が羨ましいわ」


 ロズウェルの胸に飛び込みつつ、上目遣いに彼を見上げる。甘えるように擦り寄って、彼の背中をそっと撫でれば、ロズウェルはみっともないほど顔を真赤に染め上げた。


「妻の座など――――そんなものより、愛人になってくれたほうが、君に余程良い生活を送らせてやれるよ」


 耳元で甘く囁かれ、胸の中でどす黒い感情が暴れる。


(最低! この男、最っ低!)


 今の一言でよく分かった。ロズウェルが奥さんをないがしろにしているのは間違いない。おまけに、若い令嬢に臆面もなく愛人になるよう進めてくるんだもん。本当に信じられない男だ。

 大体、借金まみれのくせに、よく知りもしない女に宝石なんてプレゼントするなって話よ。そんな暇があるなら妻や領民のために使えって言ってやりたい――――が、ここは我慢だ。


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