※追加更新終了【短編集】恋人になってくれませんか?
***



 ロズウェルは翌日、馬車に乗って郊外に出かけた。
 ダミアンが付けた使い魔が、ロズウェルの映像をあたし達の元に届けてくれる。
 彼の目的地が何処なのか、景色を見ればすぐに分かる。


「いよいよ詰めだな、アイナ」


 ダミアンがそう言って小さく笑った。

 目を瞑り、瞼を上げる。

 あたしの家――――メアリーと義母に追い出された屋敷が、目の前にあった。


「入っても大丈夫?」

「問題ない。お前の姿は今、俺以外に見えないようになっている」


 ダミアンに言われ、あたしは屋敷の壁をくぐり抜ける。

 懐かしい香り。最後に見たのは数ヶ月前だけど、玄関周りはそんなに変わってないみたい。


 階段を上がり、あたしの部屋の中に入る。
 やっぱりというか――――部屋の中のものは、殆どなくなってしまっていた。

 お気に入りのドレスも、宝石箱も、本や調度類も全部。
 恐らくメアリーの部屋に持っていかれたか、捨てられてしまったのだろう。


「泣くな、アイナ」

「――――泣いてない」


 泣いてる暇なんて、あたしにはないもの。第一、奴等のために流す涙が勿体ない。
 瞳にぐっと力を入れ、大きくゆっくりと息を吸う。


 と、その時、来訪者を告げるベルが鳴り響いた。

 ダミアンと共に玄関ホールへ戻り、来訪者の姿を確認する。

 ロズウェル侯爵だ。

 彼は我が物顔で階段を上がると、義母の私室に向かって真っ直ぐに進む。彼が部屋の中に入ったのを見届けてから、あたしたちも後に続いた。


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