ストロベリーキャンドル

「泣いているとこ悪いんだけど、さっきお前と一緒にいたおばさんは?」

おばさんのことも忘れてしまったのか…『記憶喪失』…私の中で完全にこれだと理解した…

「結城遥…嶺緒のお母さん…」

「俺の母さんだったんだ…」

そうだよ…覚えてないの…?本当に…?全部…?何か一つでも覚えてないの…?

──ガラガラ

「先生呼んできた」

おばさんと先生。あともう一人病室に入って来た…

「嶺緒くん。こんにちは。嶺緒くんの担当医者の杉浦です。よろしくね」

「よろしくお願いします」

おばさんの前になるとよそよそしくなるのはなんでだろう…

「いろいろ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」

「大丈夫です」

「ありがとう。わからないことがあったら無理に答えなくていいからね」

「…わかりました」

「じゃあ…自分の名前言ってもらえる?」

「結城嶺緒。さっき聞きました」

あっ!!こうゆうのがあるってことは、先に教えないほうがよかったのかな!?

「教えてもらう前はわからなかった?」

「はい…わからなかったです」

あぁ…本当に記憶がないんだ…

「他に月葉さんから何か聞いたりした?」

「月葉の名前と…

嶺緒がおばさんの方を向いた。

「この人が母さんだってこと」

「それ以外は何も聞いてない?」

「はい」

「じゃあ他に質問していくね」

「自分の誕生日は分かる?」

「わからないです」

「わかった。次の質問にするね」

その後に先生はいろいろな質問をしたけど、嶺緒は全部わからなかった。

家族構成、家族の名前。通っている高校、部活…など

先生が質問をしていくたびに、私の心は削られていった。あぁ…本当に忘れちゃったんだね…今にも泣き崩れたい…この部屋から出たい…私との思い出はもちろん、何一つ覚えていないんだもん。ずっと昔から知っているはずなのに、初めて会っているみたいな…そんな感じ。今目の前にいる嶺緒は私が知っている嶺緒じゃない…同じ人だけど違う。前の、誕生日の日よりも前の嶺緒に会わせて…お願いします。神様…お願いします…

嶺緒が目覚めてから1日が経った。結局私は先生が部屋を出た後、自分の病室に戻って泣いた。

どうしようもならないくらい泣いた。泣いても何も変わらないことくらいわかっている。でも、泣かずにはいられなかった。

泣きすぎて、今は目が腫れているからちょうど嶺緒に会わなくて済む。今顔を見たら、また泣いちゃう気がするから。

おばさんもずっと泣いていた。ありゃあそうだよね…自分の息子が交通事故に遭って、目が覚めたと思ったら記憶喪失…母親のことですら覚えていないんだから、当たり前だよね…私も大号泣しちゃったんだから…おばさんも辛いだろうな…

お願いだから、記憶元に戻って…
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