Cherry Blossoms〜潜入捜査官と天才医師〜

周りにいる人たちは、ヒソヒソと何かを話したり、スマホをこちらに向けて撮影をするだけで頼りにはならないだろう。だが、こうしている間にも女性の怪我の状態が悪くなり、命のタイムミリットが迫っている。

（クソッ！一体、どうすれば……）

ゴンと拳を窓ガラスに叩き付ける。だが、男性の力であっても頑丈なガラスはびくともしない。このまま救急車が到着するのを待つしかないのか、そう桜士が思い始めた時だった。

「大丈夫ですか！？今、助けますからね！！もう安心ですよ！！」

可愛らしいソプラノが辺りに響く。刹那、ガシャンとガラスの割れる音がした。

「えっ……」

桜士が顔を上げると、車の後部座席の窓ガラスを小柄な二十代と見られる女性がどこから持って来たのか、ダンベルで破壊し、窓ガラスを割った窓から車の中へと入っていた。

「大丈夫ですか！？私の声が聞こえるなら、私の手を握ってください！！」

ウェーブがかった黒いロングヘアーは、毛先だけピンク色に染められている。程よく日焼けした肌に少し垂れ目の可愛らしい女性が、血を流している女性の肩を軽く叩き、手を握っている。その女性を見て、桜士の目が見開かれた。