ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
「……あれ、小春ちゃん?」
それからほどなく、突然声をかけられて振り返る。
教室の戸枠部分に瑠奈が立っていた。
「何してるのー? 蓮くんは?」
「蓮は部の人に連れていかれちゃって……。戻ってくるの待ってるんだ」
「そうなんだ」
相槌を打った瑠奈は楽しげな笑いをこぼす。
「なんだ、小春ちゃんも蓮くんと帰りたいんじゃん。相思相愛だね」
「だ、だからちがうってば!」
蓮と帰りたいのは、瑠奈が想像しているような理由からではない。
ゲームの、そして和泉を殺めた犯人のせいだ。
「そう言う瑠奈は何してるの?」
「あたしは忘れもの取りにきたんだよ」
机を探っていた瑠奈は、そう答えながらノートを掲げた。
表紙に丸い文字で“古典”と書かれている。
そういえば、宿題が出されたことをいま思い出した。
「……蓮くん、なかなか戻ってこないね」
そう言った瑠奈がファスナーを閉めると、鞄につけられたチャームやマスコットが揺れる。
「さっき出ていったばっかだから……」
「あ、小春ちゃんは蓮くんと帰りたいんだっけ?」
「え、と────」
返答に窮してしまう。
石化の魔術師のこともあるし、ゲームのことも話したいし、蓮と帰りたいのは確かだ。
けれど首を縦に振れば、勘違いした瑠奈がまた騒ぐかもしれない。
「ねぇ、じゃあ今日は久しぶりにあたしと帰ろうよ!」
小春の返事を待たずして瑠奈はにっこりと微笑む。
「蓮くんが戻ってこないうちに……ほら、早く早く」
どうしよう、と迷った。
蓮と離れて大丈夫かな。
もし、瑠奈といるときに魔術師が現れたらどうすればいいのだろう。
(あ……でも)
魔術師は、魔術師でない者を襲わない。
和泉殺しの犯人に、小春が魔術師であることがバレていたとしても、瑠奈と一緒ならかえって安全かもしれない。
同じく魔術師だとバレている蓮といるよりも、もしかしたら。
「……分かった。帰ろっか」
小春が頷くと、瑠奈はぱっと顔を輝かせた。
「やったぁ! これで新作も飲めるー」
うきうきと弾んだ様子で素早く鞄を肩に掛ける瑠奈。
蓮の戻りを危ぶんでか、新作を飲みたいがためか、たびたび「早く早く!」と急かされた。