ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
「そっか、まあそれはしょうがねぇ。魔術師よりよっぽど危険な連中を相手取ることになるからな。無理強いはできねぇよ」
「うん……僕たちの同盟はここまでだ。だけど、きみとは少なからず縁があると思ってる。簡単には死んで欲しくない。だから、自殺なんて考えるのはやめて」
自殺なんてありえない。……本当に。
「しねぇよ。これはもともと、記憶消されたときの対策として持ってたんだ」
「へぇ……?」
冬真はひっそりと笑む。
「じゃあ、早く律を解放してくれ。俺たちもう行くから」
「うん。でも、その前にひとつだけやることがあるんだ」
冬真がそう言うと、傀儡の律が動き出した。
破れたフェンスを潜り、校外に出ると歩いていく。
「やること? 何すんだよ?」
怪訝そうにあとを追いかけると、律は車道の手前で足を止めた。
嫌な予感がする。
「おい、どういうつもりだよ。おまえ、まさか“考え”って────」
「そうだよ。これが、僕が異能で魔術師を殺す方法。……そして、大雅!」
悠々と歩み寄った冬真は、その首を乱暴に引っ掴んだ。
やっと生まれた隙を見逃さなかった。
予想外の出来事に晒された人間も、感情的になった相手と同じくらい隙だらけだ。
「く……っ」
「きみもすぐに同じ目に遭わせてあげる」
顔を歪めた大雅は霞む視界で必死に冬真を睨みつける。
少しも諦めていなかったわけだ。
やはり冬真の性根はどこまでいっても変わらない。
車の走行音が近づいてくる。
操って自殺に誘い込むのではなく、意図的に事故に遭わせる────それが、冬真が異能で相手を殺す方法なのだろう。
(鏡……っ)
殺されて異能を奪われるくらいなら、その前に自ら命を絶ってやる。
大雅はポケットに手を突っ込んだ。
視界の端で、律が踏み出した。
勢いよく突き進んでくるトラックの前へと。
「5、4、3……」
大雅を絶対服従させるまでの秒読みか、律が轢かれるまでの秒読みか。
いずれにしても、冬真が利するまでのカウントダウンでしかない。
「2────」
────その瞬間、時が止まった。
世界のすべてが停止する。
「危ないところだったぁ……。ぎりぎり間に合ったね」
「うむ」
ふたつの人影が歩み寄ってくる。
ほっとしたように瑠奈が言うと、頷いたもうひとりの女子生徒が大雅と律、それぞれに触れた。
動き出した大雅は、手にした鏡の欠片を自身の首目がけて勢いよく振り下ろす。
「ちょちょちょ! 大雅くん落ち着いて。早まらないで。大丈夫だから!」
瑠奈は慌ててその手を掴んだ。
はっと我に返ると、そこで初めて彼女たちの存在に気がつく。
「は……? 瑠奈!? 何がどうなっ……、え? 何だこれ?」
理解が追いつかない。
目の前の冬真も、勢いよく迫るトラックも、舞い落ちる木の葉も、空を駆けるカラスも────世界のすべてが静止画のように動きを止めている。
これまで消息不明だった瑠奈が突然現れたことにも、ひたすら困惑した。
「…………」
律は踏み出した一歩を地面につける。
顔を上げれば、トラックが真横すれすれのところまで迫っていた。
力が抜けて思わずへたり込み、深々と息をつく。
あと1秒でも遅かったら、と思うと身の毛がよだった。
「どうやら、傀儡は解けたようだな」