ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
そのときだった。
地面の芝生が触手のように伸びて、うららの手足を捕らえる。
「な……っ」
想定外の事態に動揺を禁じ得ない。
これは依織の能力なのだろうか。
けれど、先ほどの口ぶりからしてその可能性は低い。
「分が悪いかもよ、うらら。何か得体が知れない……」
「そう、みたいですわね。近くに協力者でも潜んでるのかも。紗夜、ひとまず“これ”を何とかしてくれないかしら?」
「分かった……」
膝を折った紗夜は地面にてのひらを置く。
触れた部分から波紋のように芝生が枯れて色を変えていった。
依織はその様を見て目を見張る。
(火炎もだけど……この能力も植物魔法の天敵と呼べるんじゃ?)
しかし、紗夜はすぐに強い頭痛を覚えた。
頭の内側から槌で殴られているようだ。
毒魔法の中で、自身が毒性を帯びる、というのが最も大きな反動を伴う。そのせいだ。
「……っ」
目眩がして、思わず座り込む。
うららに絡みついた芝生に毒が届く前に、あえなく限界を迎えてしまった。
「ごめん、うらら……。もうしんどい」
「ばかね、普段から全然ご飯食べないから体力がないんですのよ。もう、肝心なときに!」
「…………」
依織はつい呆気にとられた。
ふたりは状況が分かっていないのだろうか。
何なのだろう、この緊張感のなさは。
(まあ、いいや……)
紗夜に植物攻撃が効かないと分かったときは焦ったものの、この分なら脅威ではない。
結果的にどちらの動きも封じられた。
にぃ、と笑った依織は鉈を振り上げて走り出す。
「死ね!!」
我に返ったうららは息をのむも、芝生に捕らわれているせいで身動きがとれない。
とっさに立ち上がった紗夜が、庇うように立ちはだかった。
そんなことをしたって無駄だ。
紗夜ともどもうららを────。
「……!?」
首筋がちくりとして、はたと動きを止める。
恐る恐る真横を見ると、注射器を構える紗夜と目が合った。
構えている容器の中身は空だ。
(やばい……)
愕然としながら慌てて首を押さえた。
「動かない方がいいよ……。動けば毒の回りが速くなる。死ぬよ」
「……!」
依織は焦った。
その言葉が事実であれはったりであれ、毒に冒される前に決着をつけなければならない。
「だったら、おまえも道連れだ!」
そう叫ぶと、再び鉈を握り直した。
紗夜を突き飛ばして振りかぶる。
「!」
動けないうららの身体が刃で裂かれ、あたりに鮮血が飛び散る。
一瞬の出来事なのに、スローモーションのようだった。
「うらら……っ」
そう呼んだ声は掠れた。
鉈の斬撃でうららの拘束が解けて、崩れ落ちるように地面に倒れる。