ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
第19話 11月26日[後編]
────紗夜から「合流してわけを話す」というテレパシーを受けてほどなく、百合園家にいたという彼女が河川敷に現れた。
蒼白な顔に返り血を浴び、肩を震わせている。
おぼつかない足取りで、その手にはカッターナイフが握られていた。
(切りたい。切りたい……)
手首にあてがったそれを、とっさに小春が掴んだ。
はっと顔を上げた紗夜は、その姿を認めて目を見張る。
「無事だったの……?」
こく、と頷いてみせた。
「それについてはあとで記憶を転送してやるよ。小春、いいよな?」
「……うん、お願い」
紗夜はカッターナイフの刃を押し戻し、ポケットにしまう。
少しばかり冷静さを取り戻すと、目尻に溜まった涙を拭った。
「何があったの……?」
「うららは……結城依織に殺された」
◆
「かなり情報が揃ってきましたわね。雲を掴むようだったけれど、何だか敵の実体を捉えられた気がしますわ」
「そうね……」
いつかルールノートを作ったときのように、これまでに判明した事実をまとめていたときだった。
ふいに表が騒がしくなった。
顔を見合わせたふたりが庭へ出てみると、蔦で拘束された門衛たちが、刃物で斬られて倒れていた。
「どうなってるの……?」
「植物魔法?」
心当たりはないけれど、このありさま────ここに魔術師がいることをあらかじめ知っているような襲撃の仕方だ。
「お邪魔ー」
聞き覚えのある声に振り返る。
悠々と門から入ってきたのは、依織だった。
「……現れましたわね、結城依織。異能を奪われたことを逆恨みするなんてお門違いもいいところですわ。命あるだけでも感謝なさいよ」
「はあ? このゲームで異能を奪われるってのは死んだも同然だよ。これ以上の代償なんてごめんだけど、能力を失ったせいでおまえから取り返すこともできない!」
「わたくしを恨んでるなら、わたくしだけを狙いなさい! 関係のない方々を巻き込むなんて汚いですわ」
大雅然り、門衛然り、だ。
依織は鼻で笑う。
「しょうがないだろ。うちは異能をなくしたんだ。正攻法で正面から突っ込んでも勝てるわけがない」
「……ああ、思い出しましたわ。もともとあなたは、そういう小ずるい手法で殺しまくってた魔術師でしたわね。いまさら義を説いても仕方ないですわ」
彼女にかける情けなどなく、うららはとことん辛辣な態度をとった。
「どこから来ようが一緒よ。わたくしと紗夜が叩き潰してあげますわ」
「はぁ……。何でわたしが尻拭いを手伝う羽目に」
「し、尻? はしたないですわよ!」
正直なところ、紗夜もうららも彼女を甘く見ていた。完全に油断していた。
何しろ依織は“無魔法”の魔術師で、どう考えたって勝ち目はない。
「行きますわよ、紗夜」
うららが両手をかざす。
磁力で引き寄せたところに紗夜が毒を食らわせる、という作戦だろう。
こくりと頷いて注射器を取り出す。