ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜
第4章 誰がための終焉

第20話 11月27日[前編]


 はっと目覚めた蓮は、目の前で眠る小春を認める。

 向かい合うような形で布団の上に横たわっていた。

 (しら)んだ朝の柔らかい光が肌に影を落とし、その存在感を際立たせている。

 夢じゃなかった。
 彼女はちゃんとここにいる。けれど。
 
「…………」

 もう、昨日の小春はいない。

 思わず切なげな表情で笑った。
 そっと手を伸ばし、頬にかかった髪を流してやる。

「ん……」

 ふいに小春が目を覚ました。

 蓮の存在に気がつくと、驚いたように息をのむ。
 勢いよく起き上がった。

「あー、っと」

 蓮は少し慌てた。

 ここで不審者認定されようものなら、今日一日中そういう印象を抱かれ続けることになってしまう。

「俺は向井蓮だ。おまえは水無瀬小春な。俺たちはいまウィザードゲームとかいう、わけ分かんねぇゲームに巻き込まれてて────」

 もともと何かを説明することが苦手なのに加え、焦りも相まってさらに要領を得なくなった。

 器用な至なら、もっとうまく説明していただろう。
 そんなことを思ったとき、小春が口を開いた。

「蓮」

「ん? おう……何だ?」

 反射的に返事をしてから、すぐに違和感を覚える。

 記憶をなくした小春は以前“蓮くん”と呼んでいたはず。

「蓮、無事だったんだね。よかった」

「え……?」

「でもどうしてわざわざまた説明してくれたの? あ、それよりわたし、実はガチャを……」

「ちょっと、待て」

 困惑しながら慌てて制した。

「なに言ってんだ……? 覚えてるのか?」

「覚えて?」

 小春は首を傾げる。
 何からどう聞けばいいのか、蓮も混乱していた。

「俺の名前は?」

「蓮でしょ、向井蓮。どうしちゃったの? 何を────」

「自分の名前は?」

「え、と……水無瀬小春」

 蓮は頭を抱える。
 冷静さを欠いていた。

(ちがう、そうじゃなくて)

 こんなことを聞いても意味がない。それは先ほど自分で説明したのだ。

 そのとき、ドアがノックされたかと思うと紅が顔を覗かせる。

「ふたりとも────」

「あいつが誰か分かるか?」

 何かを言いかけた彼女を指して尋ねた。
 小春の目が紅に留まる。

 何となく状況を察した紅は口をつぐんでいた。

「分かんない……」

 ややあって、小春は答える。
 不安気に眉を寄せ、きょろきょろとあたりを見回した。

「ここ、どこなの? わたし、公園にいたはずじゃ……?」

 蓮はさらに戸惑っていた。
 いったい何の話だろう。

 けれど、そういう覚えがあるということは、記憶はゼロまではリセットされていないのかもしれない。

「どうしたのだ」

「……小春の記憶が変なんだ」

 紅は訝しむ。

「毎日失うのだろ? 何が変なのだ」

「いままでとちがう。たぶん、ぜんぶは消えてねぇ」

 自身のことや蓮のことは恐らく覚えている。
 単に教えた名前を繰り返したわけではないように見えた。

「記憶、って……? どういうこと? 何の話?」

「落ち着け、ちょっと待て。俺もいま考えてる」

 ふと真剣な表情を浮かべた蓮は彼女を見やった。

「なあ、ちなみにだけど……。八雲至のこと、覚えてるか?」

「やくも、くん?」

「……いや、いい。何でもない」
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