ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

 硬い声色で、慎重に蓮が尋ねる。

 記憶を書き換えられた彼は、どういう選択をするのだろう。

「僕、は────」

 賛成しようとしたのに、何かが引っかかって即答できなかった。

 言葉にできない違和感のようなものが胸にわだかまっている。
 アリスの言葉のせいかもしれない。

『敵の術中(じゅっちゅう)(はま)っとる場合か? 唯一の生存者になるとか言っとったくせに滑稽(こっけい)やなぁ』

 何だかしっくり来ない感覚が拭えない。

 みんなとは仲間のはずなのに、まるで情が薄い。
 それに、命はやはり自分のために使いたい。

 仲間だろうが、他人のために死ぬなんてごめんだ。
 そう思うのは、自分がおかしいのだろうか。

 そういう意識が相容(あいい)れないことも相まって、何となく自分はこの場に馴染んでいない気がする。

「おい、冬真?」

 蓮に案じられ、とっさに微笑み返した。

「……うん、僕もやるよ。協力して運営側を倒そう」

 その返答に、それぞれ思わずほっと息をつく。

 けれど、そういう意味でも時間がない。
 記憶が戻るより早く事を成してしまわなければ。

「────あいつらを()()方法は簡単だよな」

「うん……。あえてルールを犯すこと」

 彼らが状況のすべてを見ているなら、こちらの狙いも筒抜けのはずだ。

 それでも、倒すことを画策(かくさく)するだけではルール違反にならないからか、制裁には来なかった。
 余裕の現れかもしれないけれど。

 ともかくいまは、呼んだあとのことを考えるしかない。
 
「1対1じゃ敵わないよね、たぶん」

「こっちの戦力は実質6人か。日菜はあくまでヒーラー役だし」

「基本的にわたしたちはばらばらにならないようにしよう……。人数が減るほど隙が生まれる」

「そうだね。でも、誰を相手取るかはあらかじめ決めておこう」

 ────かくして、紗夜と瑠奈は呪術師を、奏汰は霊媒師を、冬真と蓮は祈祷師を、小春はリーダーの陰陽師を請け負うことになった。

 日菜は随時(ずいじ)、負傷者の治癒(ちゆ)を担当する。

 過去、祈祷師と冬真には関わりがあったものの、記憶を失っているため問題ないはずだ。

 彼がアリスのような行動に出るとも考えにくい。

「ただ、これは連中が4人で来たパターンの想定。これまで陰陽師は一度も姿を見せてない。今回もその可能性が高いかもしれない」

「そしたら、陰陽師に()いた戦力を分散させるわけね……」

「臨機応変にな。これが絶対ってわけじゃねぇから状況見て動くぞ、俺は」

 最初のうちに陰陽師が現れなくても、ほかの面子(めんつ)が倒されれば出てこざるを得ないだろう。

 いずれの場合も、最終的には陰陽師にゲームの中止を確約させる。

 失った人たちは戻らないけれど、可能な限り元に戻してもらう。
 世の人々の洗脳も解いてもらう。
 魔術師になった自分たちを解放してもらう。

 日常を取り戻す────それが最たる目標だ。
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