ウィザードゲーム〜異能バトルロワイヤル〜

 小春はそっと起き上がると、部屋を出た。

 キッチンに水を飲みにいこうとしたところ、リビングに蓮の姿を見つけた。

 しんと静まり返った空間で、ソファーに座っていた彼は小春に気がついたのか顔を上げる。

「どうした? 寝れねぇの?」

「うん、ちょっと……。蓮こそどうしたの?」

「…………」

 そう聞き返され、自ずと昼間のことが蘇る────。



『奏汰』

 外廊下を歩いていくその背中を呼び止めると、振り返った彼は首を傾げる。

『どうしたの?』

『……俺、今日もっかいガチャ回す』

 思わぬ言葉に息をのんだ。

『ちょっと待って。本気?』

『ああ。けど、自棄(やけ)になったわけじゃねぇ』

 奏汰はただ彼を見返した。
 その真剣さを測るように双眸(そうぼう)を捉える。

『火炎だけじゃ前と同じだろ。水で封じられて終わり』

『それは……』

『運営側は全員の手の内を把握してる。()()()()()のは当然だ』

 とはいえ、ガチャは魔物だ。
 時に人を惑わせ、破滅へと導く。

 そこから力を得られるのか、あるいは果てしない代償を負わされるのか、すべては運次第。

『……小春ちゃんには言わないの?』

 案ずるように尋ねると、蓮は頷く。

『……ずっと“何で”と思ってたけど、小春が黙って回した理由が分かった気がする』

 祈祷師に殺される未来を見た彼女が、そのあとひとりで決断を下した理由が。

 心配も迷惑もかけたくなくて、自分ひとりで何とかしなければ、と背負い込んだ。

『大切な人には、大切だからこそ言えないもんなのかも。……打ち明けたからって、おまえが大事じゃねぇわけじゃないからな』

『……分かってるよ』

 眉を下げて奏汰は苦笑する。

 蓮の覚悟は相当なものだった。

 いまさら止められない。
 その固い意思は、第三者に覆せるものではなかった。

『もし俺に何かあったら、小春を頼む』

 その強い眼差しを正面から受け止める。
 一拍置いて奏汰は頷いた。

『……分かった』



 不安気な小春の眼差しから逃れるべく、蓮は曖昧に笑って誤魔化した。

「何でもねぇよ。明日のこと考えてた。もしかしたらもう、人生最後の夜かもしんねぇから」

「……やめてよ、そんなこと言わないで」

「冗談だって」

 軽く流そうとしたのに、思いのほか(しん)に迫る雰囲気になってしまった。

 少なからず本心が含まれていたからかもしれない。
 今日が人生最後の夜になる可能性は否定しきれない。

 それでも────。

「最後になんかしねぇよ。小春に伝えなきゃなんねぇこともあるし」

 それに対する答えを聞くまでは死ねない、と心の中で思う。

 ふと歩み寄ってきた小春は少し間を空けて、蓮の隣に腰を下ろした。
 わずかにソファーが沈み込む。

「……もう寝た方がいいぞ? 記憶のことなら何も心配すんな。忘れてることはぜんぶ俺が教えるから」

「うん……。ありがとう」

 今日のことを忘れたくないのは事実だけれど、思い出せなくても、教えてくれる蓮がいる。

 失いはしない。
 自分の中に留まっている。

 だから、怖くはないし心配もしていない。

 ただ、記憶のことではなく、何かほかに胸騒ぎがしていた。

 漠然(ばくぜん)とした不安が渦巻いている。
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