春の花咲く月夜には
「・・・まあ、そうですよね・・・。『連絡するな』って言われたところで、あの先生がオレの言うこと聞く義理はないって思ったし・・・。けど、そっか。心春さんは、会うか迷ってるんですね」

「うん・・・」


(・・・、違う・・・)


頷いてしまったすぐ後で、私は、「違う」「今はもう迷ってない」と、自分の気持ちに気がついた。

問われて返事をしたことで、逆に、本心に気づくことができた感覚だった。

確かに、メールをもらった時は先生の口から真実を聞いてみたいと思ったし、だけど、聞くことに対する怖さもあって、会うべきかとても迷ってた。

でも今は・・・、真実がどうだったかを知るよりも、賀上くんに誤解されてしまうことが嫌だった。


(会うか迷っているなんて、先生にまだ気持ちが残ってるって思うよね・・・)


あの時の真実がどうだったのか、今だって気になっていないわけじゃない。

けれど、そんなことよりも、私がまだ先生のことを好きだって、彼に思われる方が嫌だった。

「・・・、っ、あの」

だから、伝えようと思った。

今はもう迷ってなくて、先生にはもう会わないと。

けれどそれを伝えることは、まるで告白のようなものだと思った。

それに、会うか迷っていると返事をしたのはついさっき。

なのに今、「やっぱり」と急に答えを変えるのも、決意が薄っぺらいような感覚がして、伝えることを躊躇する。

「・・・心春さん?」

突然黙った私を不思議に思ったんだろう、彼は私の顔を覗き込む。

私はハッとなって続ける言葉を探したけれど、うまい言葉は見つからなかった。

「あ・・・、ご、ごめんっ。なんでもなくて」

「・・・、なら、いいんですけど・・・」

賀上くんはそう言って納得をしてくれたけど、私が何を言おうとしたのか気になっているようだった。


(・・・当然だ・・・。もう、中途半端になにをやってるんだろう・・・)


とにかく、帰ったらすぐに『会えない』って先生に返事を書こう。

それで勇気が出たら、彼にきちんと伝えようーーーーー・・・。

少しだけ、もやもやとする気持ちが残ってしまうけど。

これ以上、言葉を重ねる勇気は出なくって、私は、そうすることに決めたのだった。










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