春の花咲く月夜には
「梅の山駅」に到着し、ドアが開くと、私と彼は電車を下りた。

まばらに歩く人の中、私たちは、無言でホームの上を2人で歩く。

ーーー先生のことを話した後から、どこか空気がぎこちない。

私はさっきの決断を、早くも後悔し始めていた。


(・・・やっぱり、『先生にはもう会わない』って、伝えておくべきだったかな・・・)


今からでも、遅くはないかもしれないけれど。

ぎこちない空気が流れる中で、ますます伝えにくくなってしまった。


(いざとなると、賀上くんが私を好きなのかどうかも自信がないし・・・)


それっぽいことは何度か言ってくれたけど、「付き合ってほしい」とか「好き」だとか、きちんと言われたわけじゃない。

それに、葉月さんの「代わり」なだけで、一時的なものかもしれないし・・・。


(・・・って、ダメだ・・・。どんどんネガティブに考えてしまう・・・)


せっかく、わざわざ電車を下りて送ってくれているのにな。

今日はもうすぐさよならするのだし、もっと明るい雰囲気で、話ができたらいいのだけれど・・・。


(・・・、あっ、そうだ)


「賀上くん」

「はい?」

「近いうちに、今日のお礼がしたいんだけど・・・、賀上くんが行きたい場所とか、食べたいものとか欲しいものとかなにかあるかな」

今日は、完全に私がお世話になったのに、賀上くんが全て支払いを済ませてくれた。

せめてスタジオ代はと思ったけれど、事前にカード決算をしていたようで、「もう済んでます」と言われて現金も受け取ってもらえなかったのだ。

「いいですよ。オレがすげえ楽しかったし」

「うん、でも、色々予約してもらったし・・・、ギターも楽しかったから。なにかさせてもらえると私が嬉しい」

今日、賀上くんはたくさんのことをしてくれて、私は嬉しかったから。

私も、喜んでもらえるなにかがしたい。

伝えると、賀上くんは少し考えるような間をおいて、「そっか」と言って笑った。
< 101 / 227 >

この作品をシェア

pagetop