春の花咲く月夜には
(あっ・・・)


彼は少しだけ笑顔を見せると、私に軽く頭を下げて、来た道を戻るようにそのままホームに向かっていった。

私は、その後ろ姿を目で追いながら、ズキリと胸の痛みを感じた。


(・・・賀上くん・・・)


今日はずっと2人で過ごして、楽しかったし、何度かいい雰囲気になったと思う。

それなのに、私は「はい」と返事ができなかった。

きっと「なんでだろう」と思っただろうし、彼にとっては私こそ、思わせぶりな態度なのかもしれない。


(・・・余計なことは考えず、素直に気持ちを言えてたら・・・)


だからといって、そうすることも、正解だったかわからない。

私も好きだと彼に伝えて、それで彼女になれたとしても、きっと、今以上にいろんな不安が出てくるだろうと思うから。


(だけどーーーーー・・・)


自分はこれからどうしたいのか、どうすることが正解なのか。

答えはきちんと出ないまま、目に映る彼の姿はどんどん小さくなっていく。

そして、見えなくなってしまってからも、私は、しばらくその場から動けなかった。











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