春の花咲く月夜には
鳥肌とともに、背中に嫌な汗が流れた。

逃れられないようなしつこさに、恐怖までも感じてきたから。


(・・・ど、どうしよう・・・)


プロフィールも・・・会った時も、最初は爽やかな感じだったのに。

こんなふうに変わるだなんて、こういう場合・・・、こういう時ってどうしたら・・・。

「ねぇ」

その時。

突然、隣の席から苛立ったような声がした。

驚いて、右隣の席に目を向けると、20代半ばくらいだろうか・・・気怠げな雰囲気の男性が、長い前髪の隙間から、私のことを射抜くような瞳で見ていた。

切れ長の、鋭い目。

その視線に囚われて、私は目を、逸らせない。

「おねーさん、もっとはっきり言った方がいいんじゃないですか」

「えっ」

「このオッサンに。気持ち悪いから手え離せって。おまえと結婚するなら死んだ方がマシだって」

氷のような表情に、怒りが混ざった声だった。

戸惑う私。

平沢さんは目を見開いて、握っていた私の手を離し、苛立ったように立ち上がる。

「な、なんだ君は!突然横から割り込んで」

「・・・だって、聞いてて気分悪すぎて。勘違いしてるオッサンが、偉そうにこの人口説いてるから」

右隣の男性が、ため息交じりに呟いた。

平沢さんの眉尻が、ピクッと怒りで持ち上がる。

「タワマン住まいも海外転勤も本当かどうか・・・、アンタ、仕事できそうに見えないし」

「なっ」

「この人のことも。結婚ちらつかせれば飛びつくって考えてたっぽいけどさ。アンタとの結婚に飛びつく女がいるのかよ」

「っ!?」

「・・・いねえな。いたら相当見る目がねえし。それでも、眼鏡とかコンタクト変えたら勘違い男ってすぐに気づくと思うけど」

「・・・っ、お、おまえっ・・・!!」

我慢ならない、と言った様子で平沢さんは歩き出し、右隣の男性の胸倉をグッと掴んで立ち上がらせた。

右隣の男性の方が背丈はすらっと高いけど、体格は、平沢さんの方が明らかにガッチリしていて強そうだった。

「ひ、平沢さん・・・!」

私も慌てて立ち上がり、止めるように平沢さんの腕をつかんだけれど、邪魔だ、というように肘で身体を小突かれて、後ろに少しよろけてしまった。

周囲からは、「きゃあっ」という悲鳴があがっている。
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