春の花咲く月夜には
「・・・うーん・・・、なるほどねえ・・・」

私が話し終わってひと息つくと、紗也華はそう言ってしばらく考え込んだ。

私は、「話してしまった」という罪悪感のような感情と、「やっと全部誰かに話せた」という安堵のような感情が、同時に心の中に存在していた。

紗也華は、考えを吟味しながらビールを飲んで煮物を食べて、ゴクンと最後に飲み込むと、くるりと私の方を向く。

「心春、その先生のこと今も嫌いじゃなさそうだから、イヤなこと言うかもだけど」

「う、うん」

「その先生、すごくずるくてかなりの策士だと思う。そりゃあ長く引きずるし・・・、恋愛がトラウマにもなるよ」


(え・・・?)


私は、紗也華の言葉に戸惑った。

ずるくて策士・・・、先生が?

確かに、二股疑惑はあるままだけど、文字通りまだ「疑惑」だし、先生のことをそんなふうに言う人は、今まで誰もいなかった。

先生は、優しくてみんなに人気でいい人でーーー、それがずっと、私はもちろん、みんなとの共通認識だったから。

戸惑う私に、紗也華は、ため息をついて話を続ける。

「付き合ったりとかしなければ、普通に『いい先生』で終わるタイプな気はするけどね・・・。男としては、かなりずるい人だと思うよ。多分・・・、心春に『付き合おう』って言ってきたのも、心春の性格とか・・・全部わかった上で言ってきたんじゃないのかな。心春が自分を大好きで、自分の言うこと素直に聞いて、絶対裏切らない『いい子』だって・・・、全部わかってたから、彼女がいるのに『付き合おう』って言ってきたんだと思う」

紗也華の言葉に、ズキリ、と胸が痛んだ。

確かに私は、先生にとってずっと「いい子」でいたかったけど、今の紗也華が言った「いい子の私」は、本当に望んでいたものではないかもしれない。

「まあ、もちろん、心春のことは好きだったんだと思うけど・・・。心春がそういう性格じゃなかったら、先生っていう立場でさ、彼女がいるのに告白してこなかったと思うんだよねえ」

「・・・・・・」
< 116 / 227 >

この作品をシェア

pagetop