春の花咲く月夜には
他部署におじゃまする時は、アウェー感があって未だにちょっと緊張してしまう。

物を渡す、とか、ハンコをもらう・・・という用事が多いので、そこまで長居はしないのだけど、それぞれ独特の空気が流れているから、その空気を乱さないよう、気を張ってしまうのかもしれない。


(マーケティング部は紗也華もいるし、雰囲気は悪くないんだけれど・・・、なぜか入り口が狭くて入りにくいし、男の人が多いんだよね・・・)


事務課とは、明らかに違う空気感。

ちょうど紗也華がいるといいけれど・・・と思いながら、マーケティング部の入口に立つ。

「失礼します」と声をかけ、ひょいっと中を覗いてみると、ちょうど近くを歩いていた賀上くんと目が合った。


(!)


「心春さん。どうしました?」

私がドキッと胸を鳴らす間に、彼はすぐ、そばまで来てくれた。

嬉しいけれど、やっぱり緊張してしまう。

「あの、課長の西谷さんに速達がきてて。届けに来たの」

「ああ・・・、課長、今席外してるんで。渡しておきますよ」

「そっか。じゃあ・・・、お願いします」

言いながら、私は賀上くんに茶色い封筒を手渡した。

彼の顔は、まともに見れない。


(・・・ああもう・・・、やっぱり、スーツ着てるのかっこいい・・・!)


そもそもがかっこいいんだし、何を着てても似合うけど。

スーツというのは、やっぱり特別だと思う。

落ち着かないまま、「じゃあ」と立ち去ろうとした時に、首を傾げた彼と目線が合わさって、私の心臓は止まりそうになってしまった。

「・・・心春さん、今日、なんか雰囲気違いますね」

「!」


(き、気づいてもらえた・・・)


なにはともあれそれだけで、喜んでいる自分に気づく。

私は、自分が思っているよりも、ずっと単純なのかもしれない。

「・・・うん。えっと・・・、少しだけ、メイク変えたの」

「へえ・・・、そっか。かわいい」


(・・・え!?)


あまりにも、自然に言ってくれたから。

聞き間違いのように思って、驚きながら彼を見た。

すると彼はハッとして、焦ったように視線を外す。
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