春の花咲く月夜には
彼とのデートを翌日に控えた金曜日。

今日は、明日のために早く帰ってマッサージをしてパックして・・・美容を頑張り、できるだけ早く寝ようと考えていた。

けれど、こんな日に限って急な残業を頼まれて、会社を出た時には21時を過ぎてしまった。


(うわあ・・・、予想よりもずいぶん遅くなっちゃったな・・・)


お腹もかなり減っている。

夕飯は・・・、冷蔵庫には、残り物はなにもなかったような。

これから料理をする元気は残っていないから、今日はもう、コンビニで買って済ませてしまおう。

そんなことを考えながら、会社から駅までの道を早めの速度で歩いてく。

ーーー間もなく駅が見える頃。

ほどなくして、駅の看板が見えてきた。

これなら次の電車に乗れそうだ・・・と、腕時計に目を向けた時、前方から、「心春」と聞き覚えのある声で呼び止められた。


(え・・・?)


胸の奥が、ドキリとする感覚がした。

恐る恐る視線を上げて、声の主に視線を向けると。

「!」


(元村先生・・・!?)


私に声をかけてきたのは、もう、会わないと考えていた先生だった。

こんなところで、こんな時間に。

偶然?それとも、私のことを待っていた・・・?


(・・・どうして・・・)


あんなメールを送ったし、紗也華と話して整理がついて、先生のことは、もう、自然と傷が治っていくのを待つだけだって、そんなふうに思ってた。

だけどまた、その傷口が開いていくような感覚がして。

私はとても怖くなり、軽い会釈だけをして、そのまま通り過ぎようとした。

けれど。

「心春、待ってくれないか」

先生に右の手首を掴まれて、驚いて私は立ち止まる。

先生は、そんな私を見下ろすと、ほっとしたように息を吐く。

「勤務先、変わってたらどうしようかと思ってたんだけど・・・。会えてよかった」

「!」

先生は、私のことを待っていた。

なんで、と思う気持ちと、怖いような気持ちが重なる。
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