春の花咲く月夜には
言いながら、マサさんは私の右手に目を向けて、その手を掴んでいる先生の腕、そして・・・先生の顔へと視線を移す。

マサさんは、それで状況を読み取ったのか、徐々に顔を険しくさせて、一歩、二歩・・・と、先生にゆっくり近づいていく。

そして、先生を間近で見下ろす位置まで来ると、凄むような顔で「おい、コラァ・・・」と、ドスのきいた、低い低い声を出す。

「てめぇ・・・、誰の手気安く触ってるんだ。ぁあ!?」


(!?!?)


話すととても優しくて、チャーミングな印象のマサさんだけど。

ぱっと見はかなりイカツくて、黙っていたら「怖い」という印象もある。

そんなマサさんに、こんなふうに間近で凄まれてしまったら、完全に恐怖だと思う。

先生は「ひいっ!」と小さく悲鳴をあげると、顔を真っ青にして、私からパッと手を離す。

「てめぇ・・・、この子が誰の女か知ってて手ぇ出しとんのか」

「や、あ、あの・・・」

「ああ!?」

「し、知りませんでした!!」

「ごめんなさい・・・!!!」と謝ると、先生は、途中よろけながらも一目散に逃げていく。

マサさんは、先生の後ろ姿に「二度と手ぇ出すんじゃねえぞ!!」と大きな声で呼びかけていた。


(せ、先生・・・・・・)


多分、初めて見る先生のかっこ悪い姿だと思う。

私は、言語化できないようなとても複雑な心境で、その後ろ姿を呆然としながら見つめていた。

「まったくもう・・・、しつこい男ってイヤよねえ」

マサさんはくるっとこちらを振り向くと、ふう、と大きな息を吐く。

今はもう、普段のマサさんだ。

マサさんは、呆然とする私と目が合うと、「あらやだ」と言って肩をすくめた。

「ごめんねえ、久しぶりに(おとこ)が出ちゃったわ。怖かったでしょう心春ちゃん」

「え、えっと・・・・・・、そうですね・・・。というか、どちらかというとビックリしました・・・」

「そうよねえ。つい、ああいう状況って昔の血が騒いじゃうのよねえ・・・」

「ふぅ」、と、マサさんが再び息を吐く。

昔・・・、マサさんは、昔はなにをしてたんだろうか。

考えると、心臓がちょっとドキドキしてしまう。
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