春の花咲く月夜には
遠くで聞こえる、犬の鳴き声。

どこからか、子どものはしゃぐ声がする。

隙間から漏れる眩しい光。

私はぼんやりしながらも、ゆっくりと瞼を開けた。

「・・・・・・」


(・・・、あれ・・・?)


目の前に広がる光景に、最初に感じたのは違和感だった。

いつもと違う。

天井の色。丸い照明。

白い枕と、水色のシーツと毛布。

いつもより、少し硬めのマットレス。


(・・・あれ・・・・・・?)


枕を触る。

シーツに触れる。

毛布も・・・、やっぱり、いつも私が使っているものとは別物だ。


(・・・、ここは・・・・・・?)


状況がよくわからないまま私はゆっくり起き上がり、部屋をぐるりと見渡した。

ーーーきちんと整頓された部屋。

たくさんの、本やCDが詰まった本棚。

ノートパソコンが置かれた机。

小さなローテーブルに、あれは音楽スピーカー。

多分アンプと・・・、壁に立て掛けてあるのは、見覚えのある黒いギターだ。

「・・・・・・」


(・・・ま、まさか・・・・・・)


キョロキョロと、私はここの住人の姿を探す。

と、家の鍵がガチャリと開く音がして、ドアが開いて電気がついて、隣の部屋が明るくなった。

こちらに近づく小さな足音。

部屋の入口で立ち止まった足音の主と目が合うと、私は大きく息をのむ。

「・・・!」


(や、やっぱり・・・、ここ、賀上くんの家だ・・・!)


Tシャツにデニム姿。

格好はカジュアルだけど、仕事の時のように、賀上くんは前髪を軽く上げていた。

賀上くんは、一瞬ドキッとするような顔をして、戸惑いがちに私からさっと目を逸らす。

「あ・・・えっと・・・・・・、おはようございます」

「お、おはようございます・・・」

彼からの挨拶に、私はドキドキしながら言葉を返す。

賀上くんは、落ち着かない様子で額をかくと、手に持っていたビニール袋をローテーブルの上に置く。
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