春の花咲く月夜には
賀上くんの口から先生の話題を出されると、気まずいような・・・何とも言えない感覚になり、私は少し言葉につまった。

昨日は、確かにとても悲しくて、思い出すと、やっぱりとても悲しくて、泣きそうな気持ちになるけれど。

マサさんたちがいてくれて、ずいぶんと気が紛れたし、いつの間にか寝てしまうほど飲んでしまって・・・、大丈夫といえば大丈夫だし、私は「うん」と頷いた。

すると彼は、悩むように私を見つめた。

「・・・我慢とか・・・、してないですか」

「え・・・?」

「いや・・・、オレは詳しいことはわからないし、無理に聞き出すつもりもないんですけど・・・。心春さん、結構つらそうだったって、マサさんが話してて・・・。一方的に元気づけようとするよりも、ゆっくり話聞く方がよかったかなって気にしてたんで」

「!」

マサさんは、そこまで気にしてくれていたんだ。

申し訳なさと、マサさんの優しさに涙が出そうになってくる。

それに今、こうして気にかけてくれている、賀上くんの優しさも。

「・・・すいません。起きたばっかで、嫌なこと思い出させてますね・・・」

「う、ううん!そうじゃなくて・・・」

上手く言葉が出てこない。

ありがとうとか嬉しいとか、そういう言葉に近いような感覚だけど。

もっと・・・、伝わるような言葉にできたらいいと思うのに。

どう言えば、気持ちがちゃんと伝わるだろうか。

「・・・心春さん」

賀上くんに呼びかけられて、私は、うつむいていた顔を持ち上げた。

視線が合うと、賀上くんは、前髪をクシャッと軽く掻きあげた。

「・・・隣、座ってもいいですか」

「っ、うんっ」

反射的に頷いてしまったけれど、ベッド上、隣に座った彼との距離は、こぶし2つ分ほどだった。

こんなに近い距離に隣り合って座ったことは、今までなかったと思う。

しかも、彼のベッドの上で。

さっきまで考えていたことが、全てどこかへ飛んでいってしまうくらいに私の胸がドキドキとする。
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