春の花咲く月夜には
(・・・ん?あっ)


ふと見ると、男性の首元が横線状に赤くなっていた。

多分、平沢さんに胸倉を掴まれた時、シャツの襟が食い込んでしまったのだろう。

「あの、首、赤くなってますけど・・・、痛くないですか」

「え?」

「多分、さっき掴まれた時・・・」

「・・・ああ・・・」

男性が首元に手をやった。

その様子を、感触だけで確認するように。

「平気です。まだ喉がへんな感じはしてるけど。治まってきてるし、そのうち治るでしょ」

「・・・・・・」


(でも、ちょっと痛々しいな・・・)


どうしよう、と考える。

首の跡は私がつけたものではないけれど、やっぱり、巻き込んでしまったという申し訳ない気持ちは拭えない。

この男性は、自分のせいって考えているようだけど・・・。

「・・・治療費、払います。万一治らなかったら大変なので」

悩んだ末に私が言うと、男性は驚いたような声を上げ、その後「ぷっ」と吹き出した。

長い前髪であまり顔は見えないけれど、あどけない、少年のような雰囲気で。

「いいですよ。おねーさん、ほんと律儀だな。オレは自分のせいって思ってるから、おねーさんは関係ないよ」

「・・・でも」

「気が治まらない?」

「・・・うん。やっぱり、あなたのおかげで助かったって思っているし・・・」

「・・・・・・」

どうしたものかというように、男性が少し首を傾げた。

そして少し間をおいて、「そうだ」と、カバンの中に手を入れた。

「・・・じゃあ、これ、よかったら来てください。来週末にライブやるんで」

差し出されたのは、一枚のチケットだった。

斜め上からの返答に、私は何度か目をぱちくりとした。

「え?えっと・・・、ライブ?」

「はい。この、『T's Rocket(ティーズロケット)』っていうのがオレのバンドで。今度の土曜の夜って空いてますか」

「土曜・・・、はい、確か・・・」

「じゃあ決まり。治療費の代わりに来てください。おねーさん、多分何かしないと気持ちが収まらないんですよね?」
< 15 / 227 >

この作品をシェア

pagetop