春の花咲く月夜には
「そ、そこまでしなくても」

「いや・・・、オレが『Tロケ』にいる限り、多分、亜莉沙と縁は切れないし。これ以上心春さんを傷つけるなら、相手が誰であろうと許せないから」

そう言うと、彼は怒りを秘めた、氷のような顔をした。

今日は何度も、彼の初めての表情を見る。

「・・・まあ、そうはならないように、ちゃんと話をするつもりでいるんで。だから、心春さんも・・・、亜莉沙と葉月のことはもう、気にしないでくれると嬉しい」

「うん・・・・・・、わかった。じゃあ・・・、そこはがんばる」

「うん。けど、どうしても気になるとか不安になったらいつでもオレに言ってくれれば。オレができることならなんでもするし」

そう言うと、賀上くんは私のことを真っ直ぐ見つめた。

彼の言葉は嘘じゃない。

私は、彼の気持ちの大きさを、ちゃんと感じ取れるようになった気がした。

それでもーーー、彼が言っていた通り、全部じゃないかもしれないけれど。

「・・・、ありがとう・・・。色々考えてくれて・・・、忙しいのに、時間も作ってくれて」

「いえ。このくらいは、全然」

「・・・あっ、ていうか、時間、大丈夫かな」

ハッと私は不安になって、彼に尋ねた。

彼がここに来てから今までで、結構な時間が経っているんじゃないかと思う。

「ああ・・・、まあ、平気です。一通り練習してあるし、心春さんに、ちゃんと会えるの久しぶりだしーーー・・・」

と、ここで、賀上くんの胸ポケットのスマホがブーブーと音を鳴らし始めた。

音はずっと、止まらない。

賀上くんは、あからさまに迷惑そうな顔をする。

「・・・賀上くん、電話じゃないの?」

「・・・そうかもしれない」

「じゃあ、出た方が」

「・・・・・・」

彼は胸ポケットからスマホを取り出すと、画面を見てため息をつく。

そして、「ちょっとすいません」と言って席を立ち、しばらくしてから戻ってきた。
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