春の花咲く月夜には
「・・・すいません。早く帰ってこいってうるさいんでそろそろ帰ります」

残念そうに、どこか拗ねたようにも見える様子で彼は言う。

その表情がなんだかちょっとかわいくて、私は少し笑ってしまった。

「うん、大丈夫だよ。みんな待ってるんだよね。ありがとう・・・、ほんとに。来てくれて、嬉しかった」

「・・・・・・」

賀上くんは、テーブルの上の伝票をサッとつかんで立ち上がる。

「あっ」と言って彼を見上げると、賀上くんは、有無を言わせないように私にキスをした。

「!」

「・・・じゃあ、また」

彼が私に笑顔を向けた。

そしてそのまま、レジの方へと歩き出す。

私は、まさかのキスに驚いて、その場で動けなくなってしまった。

ーーー頬が熱い。

さっき、手のキスだけでも十分熱くなったのに。

ふっと視線を動かすと、斜め前で掃除をしていた店員さんと目が合って、顔から火が噴き出しそうなほど恥ずかしくなったことを彼は知らない。









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