春の花咲く月夜には
家に帰ると、ちょうど奈緒から電話があって、「今日どうだった?」とウキウキしながら問いかけられた。

私は、平沢さんのこと、右隣の席の男性のこと・・・かいつまんで一連の出来事を話していった。

すると奈緒は、途中、「ええ!?」「ナニソレ!?」と怒ったりツッコミを入れたりしていたけれど、最後には、「そうだったの・・・」と、すっかり落ち込んだ様子になっていた。

「・・・なんかごめん・・・。私が平沢さんをゴリ押ししちゃったばっかりに・・・」

「うん、でももう大丈夫だよ。大事には至らなかったわけだしね」

「でも、すごく嫌な思いをしたでしょう・・・。ていうか、なんなのなんなの平沢さん!ただのヤリモク?結婚詐欺師?それとも、ただ単に本人が結婚焦ってるだけ??」

落ち込んだ様子から一変。奈緒の荒い鼻息が、電話越しにまで伝わってくる。

私は、苦笑いして答えを返した。

「どうなんだろう・・・、逃げて行っちゃったから結局なにもわからないけど・・・。後でアプリ見てみたら、平沢さん、退会してたし」

「はあ~!?」

そこで、奈緒の怒りは頂点だった。

叫ぶような大きな声が、私の耳にキーン!と響く。

「ナニソレ!じゃあほんとにメッセージとかで怒りもぶつけられない感じじゃん!」

「うん・・・、まあ、もう、関わりたくもないからな・・・」

平沢さんに握られた、手の感触を思い出す。

すーっと、腕を触られた感触も。

・・・だ、だめだ。気持ち悪くて早く忘れてしまいたい・・・。

「んー・・・、まあ、そう言われればそうだよね・・・。また気分悪くなるかもしれないし。変につながりを持つよりいいか」

私の気持ちを感じ取り、奈緒もそう言って納得をした。

そしてすぐに気持ちを切り替え、「でもさ!」と明るい声を出す。

「そのバンドマンとは、まさかのいい出会いだったんじゃない?」

ウキウキとした奈緒の声。

奈緒は、声だけでも気持ちがとてもわかりやすい。
< 17 / 227 >

この作品をシェア

pagetop