春の花咲く月夜には
「・・・ふーん、そっか。じゃあ、付き合い始めてからデートっていうデートはしてないんだね」

「うん、そうだね・・・。ごはんに一緒に行ったぐらいで」

ライブ前。

約束していた通り、紗也華が「美味しそう」と言っていたカフェを2人で訪れた。

私は紅茶とメロンタルトを、紗也華はコーヒーとチョコレートケーキを食べながら、話題にするのは、私と彼が付き合いはじめてからのこと。

「ライブ前ってそんなに忙しいのか~。まあ、社会人だから土日しか練習できないもんねえ」

「そうだね・・・、バンドによって違いはあると思うけど・・・。賀上くんのとこは、ドラムのナオキくんって人が『練習の鬼』らしくって。ライブの1、2週間前の土日は合宿並みに練習するみたい」

「そうなんだ!社会人で合宿並みって・・・。どーりで賀上くんのクマはすごかったんだなー」

納得するような紗也華の言葉に、私は「え?」と首を傾けた。

今週、社内で彼を見かけることはあったけど、わりと遠目で、目の下のクマまで確認することはできなかったから。

「そんなに?」

「うん。あれは絶対寝不足だよね。まあ、疲れとかこっちに見せないし、仕事は普通にしてたけど・・・、クマは結構すごかったなあ」

「・・・」


(そうなんだ・・・)


先週、彼がファミレスに会いに来てくれた時、忙しそうではあったけど、寝不足のようなクマはなかったと思う。

練習を抜け出した分、あの後、賀上くんだけさらに厳しくなったとか・・・?

毎日、メッセージでのやりとりは続けているけれど、彼は「疲れてる」とか絶対言わないし、寝不足のことは私は全然気づかなかった。

「・・・大丈夫かな、ライブ」

「ん?ああ、それは心配ないと思うよ。仕事に支障は出てないし、賀上くん、基本的に体調管理はきちんとしてると思うから。昨日の夜は早めに寝たんじゃないかなあ。それで今日はバッチリだって」

「・・・そっか・・・。うん、そうだよね・・・」
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