春の花咲く月夜には
ライブハウスに到着したのは、開場時間の少し前。

すでに長めの列が出来ていて、私と紗也華は最後尾に並んで中へと入る順番を待つ。

「若い子ばっかりかと思ってたけど、うちらより年上っぽい人たちも結構いるね」

「うん。多分、もういっこのバンドの・・・『ANTENNA』のファンの年齢層が少し高いのかもしれない」

「そうなんだ。おかげでちょっと入りやすいっ」

「うん」

話しながら、ドリンクチケットを受け取って、ライブハウスの中に入った。

途端、見える世界が特別なものへと変化する。

ーーー小さな箱に、ステージと、観客エリアと。

久しぶりの、この感覚。

開演前のなんともいえない高揚感で、私の胸が騒がしい。


(・・・あ・・・)


観客エリアの最前列、ど真ん中。

私と紗也華が場所取りをした位置から数メートル、右斜め前方に、亜莉沙ちゃんとカナちゃんの姿が見えた。

ショッピングモールで見かけた男の子2人も一緒のようだ。

ザワッとするような胸の痛みを感じていると、こちらを振り向いたカナちゃんと、私の目がバチリと合った。

カナちゃんはハッとして、私に軽く会釈する。

私が会釈を返したところで、亜莉沙ちゃんがカナちゃんに「誰?」と聞いているような素振りが見えた。

カナちゃんはそれに答えたのだろう、亜莉沙ちゃんは頷くような様子を見せたけど、こちらを振り向くことはしなかった。

以前のようなキツイ態度はないものの、これはこれで、結構切ない。


(賀上くん、亜莉沙ちゃんとどんなふうに話をしたのかな・・・)


仲良く・・・、とはいかないだろうけど、普通に挨拶ができるくらいの関係になれたらいいなと思う。

亜莉沙ちゃんにしてみたら、そんなことは望んでいないだろうから、なかなか難しいかもしれないけれど・・・。

「ん?心春、どうかした?」

「あ、ううん・・・」

歯切れの悪い様子に紗也華は少し不思議そうな顔をしたけれど、すぐにハッと表情を変え、フフフと笑った。

「さては、彼氏のライブに緊張してるな~?」

「う、ううん!そうじゃなくて」
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