春の花咲く月夜には
「ねー、サクヤくん?」

「え、あー・・・、はい。慣れないんで、聞き苦しいかもなんですが・・・」

「だいじょーぶ!!何度も練習してたでしょー」

ショウくんに励まされ、賀上くんは照れくさそうに頷くと、観客に向かって頭を下げた。

彼の緊張感が伝わってくる。

会場中が、見守るように静かになった。

「・・・・・・じゃあ・・・・・・、聞いてください。『春の花咲く月夜には』」

彼が告げ、ゆっくりと、甘く切ないようなギターのイントロが流れ出す。

途端、胸がトクンと鳴って、私の耳が、熱をもって小さく震えた。

ーーーすうっと、息を吸い込む音がした。

そして彼は、ギターの音に、ゆっくり言葉を乗せていく。




君に恋した日の夜は

綺麗な月が空に浮かんでた


いつもと違う横顔に

惹かれたんだと伝えたら

単純だって君は笑うかな


知ってる限りの言葉尽くして

気持ちを伝えられたらいいけれど

それは僕には難しそうで


傷ついた過去まで癒せるような

音なら君に届くだろうか

君を笑顔にする魔法

届くと願って歌を贈ろう


春の花咲く月夜には

僕の手に

花びらが溢れるように降り積もり

君の手に

色とりどりの花束が

笑顔のように咲き誇る


永遠に

解けることのない魔法

「愛してる」って、言葉は君に届くかな


月夜の花より美しく

静かに咲いた笑顔の君を

これからも

ずっとそばで守りたいって思うから




低音の、とても綺麗な声だった。

優しく響くギターの音が、静かに止んだ。

観客たちが聞き入っていた静寂の中、賀上くんが「ありがとうございました」と頭を下げると、すぐに称えるような歓声と、あたたかい拍手の音が鳴る。


(今の曲ーーー・・・)


私は、顔を熱く火照らせていた。

心臓の音が、いつもより、ずっとうるさい。

歌う前、彼は何も言ってなかったし、もしかしたら、勘違いなのかもしれないけれど。

でも、きっと、この曲はーーー・・・。

「心春っ、やばいね今の曲。絶対、心春のこと想って作った曲だよね!?」
< 177 / 227 >

この作品をシェア

pagetop