春の花咲く月夜には
興奮気味に、紗也華がこそっと私に呟いた。

言葉にされて、私は頬をますます熱くする。


(そう・・・だよね?・・・きっと・・・・・・)


私に向けて、彼が曲を作ってくれて、そしてここで歌ってくれた。

この体感を、感情を、言葉にするのは難しく。

心臓の音が、どうしようもないほど速くって、ただただ頬と・・・、身体中が熱かった。

「よかったよー!!」

「いい曲~!!」

止まらない、お客さんたちの歓声の中、どこからか、「今の曲、誰かに向かって歌ってたよね?」「アリサちゃん?」「え、別れたっぽい話聞いたけど」「新しい彼女?」「えー!ここに来てるの?」という声も飛び交って、辺りを見回し始める人もいた。


(えっ!ど、どうしよう・・・・・・)


この状況に、私は途端に焦り始めた。

ここで今、自分が彼女だとわかってしまうのは、正直、怖さや不安があって。

これから先、いずれ伝わるだろう覚悟は徐々にはしてるけど。

今、ここでいきなりは、まだ、心の準備ができてない。


(・・・どうしよう・・・。だからって、この雰囲気をどうすることもできないけれど・・・)


「サクやーん!!いい曲だったよー!!かっこいーーー!!」

その時、会場の後ろの方から声がした。

薄暗くてよく見えないけれど、この声、そしてこの呼び方は、「ANTENNA」のアンナさんだ。

会場中のみんなの視線が、アンナさんに集まっていく。

「アンナだ!」

「え!?まさか、サクヤの相手ってアンナなの!?」

「えー!!結構年齢差あるよねえ!?」

「ただの掛け声でしょ」「いやいやあのタイミングって」と、みんながザワザワ騒ぐ中、私は、心の中でアンナさんにお礼を言った。

アンナさんは、何気なく声援を送っただけかもしれないけれど・・・。

薄暗闇の中、アンナさんはステージに向かって大きく手を振っている。

照れているような、戸惑うような賀上くん。

ショウくんは楽しそうに「ははっ」と笑い、左の腕で、賀上くんの肩を組む。

「よしっ!じゃあ、次は雰囲気変えていきますよー!!」

そう言って、ショウくんが合図のように右手を上げると、賀上くんはギターを鳴らし、ベースとドラムも重なった。
< 178 / 227 >

この作品をシェア

pagetop