春の花咲く月夜には
ライブハウスの外へと出ると、頭上には、綺麗な月が昇ってた。

さっき、賀上くんが歌っていた曲のフレーズを思い出す。

彼は、こんな月の夜を想ってあの歌詞を書いてくれたのだろうか。

「ふはーっ!楽しかったねえ」

紗也華が、隣で大きく伸びをする。

私は笑って、大きく「うん」と頷いた。

「最後にみんなで合わせてくれたの嬉しかった」

「ね!ステージ狭そうだったけど」

「うん」

帰り際に受け取った、ドリンクを片手に出口の近くでしばらく話をしていると、後ろから、「心春ちゃーん!」と声をかけられた。

振り向くと、「ANTENNA」のアンナさんが笑顔で手を振っている。

アンナさんは私にタタッと駆け寄ると、周りに聞こえないように、小さな声で囁いた。

「心春ちゃん、サクやんの彼女だったんでしょう?あの時、話してくれればよかったのに」

にまにまと、意味深な笑顔でアンナさんが私を肘でつついた。

「あの時」というのは、きっと、マサさんのお店で私が酔いつぶれてしまった時のこと。

寝てしまった私を賀上くんが迎えに来てくれたのだから、彼女だと思うのが自然な流れなのだろう。

だけど・・・。

「あ、あの時は、まだ付き合ってなくて・・・」

「ええっ!?そうなの?サクやん、完全に『彼女を見る目』だったけど」

「や、でも本当に・・・、あの後から、付き合うようになりまして・・・」


(賀上くん、どんな目をしてたんだろう・・・)


考える私に、「ほお~ん?」と、疑いの眼差しを向けるアンナさん。

本当です・・・と思いつつ、これ以上言い訳するのも無意味なようで、私は、戸惑いながらも口を結んだ。

「ふふ、まあいいや。あ、こちらはお友達?」

アンナさんが、紗也華に目を向けながら言う。

私は「はい」と頷いた。

「そうです。会社の同期で友人の・・・」

「あっ、与謝野紗也華です」

「さやかちゃん。よろしく~。私は『ANTENNA』のボーカルやってるアンナです」

「は、はい、わかります・・・!!」

「ライブ、よかったです!!」と、興奮気味に感想を伝える紗也華。

アンナさんはとても嬉しそうな笑顔になって、「ありがとー!」と、紗也華に軽く投げキッス。
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