春の花咲く月夜には
「いや~、サクやんの会社は美人でいい子ぞろいだねえ。あ、さやかちゃんはサクやんのこと知ってるんだよね?」

「はい。同じ部署で働いてまして」

「そうなんだ!・・・ちょっとどうよ?一緒に働いてる後輩の男子がさぁ、あんな歌、みんなの前で熱く歌っちゃう姿とか」

「・・・やばいですね、いろんな意味で。でも、ちょっと萌えます」

「ぅあーっ!!わかる・・・!!!」

「ですよね!」「うん!」と、悶える紗也華とアンナさん。

2人は気が合いそうだった。

そういえば、ちょっと似ているところがあるかもしれない。

「で、当の本人はどうなのよ~、心春ちゃん!」

「えっ」

「サクやん、心春ちゃん大好き~!!って感じで歌ってたじゃん!!どうなのどうなの?どういう気持ちで聞いてたの!?」

「え、えっと、それは・・・」


(うう・・・、困った・・・)


あの時は、とにかく頬が熱くって、言葉にできない感覚だったから、上手く説明なんてできない。

それに、改めてこう聞かれると、とにかく恥ずかしい気持ちでいっぱいで。

どうしよう・・・と、アンナさんの勢いにたじろいでいると、後ろから、トントン、と肩をたたかれた。

ん?と思って振り向くと、私のことをじっと見つめる、強い視線と目が合った。

「!?」


(亜莉沙ちゃん・・・!)


亜莉沙ちゃんの少し後ろには、カナちゃんと、男の子が2人いて、心配そうな顔で見守っている。

開演前の様子から、亜莉沙ちゃんには距離をとられている感じがしたから、私はとても驚いて、すぐに言葉が出なかった。

亜莉沙ちゃんは、どこか気まずそうな表情になり、ふいっと視線を横へと逸らす。

そして、肩にかけている大きなカバンに手を入れて、取り出した一冊の本を私にサッと差し出した。

「これ、あげるわ」

「え・・・?」

見ると、表紙に綺麗な女性が写っている、「葉月 Beauty Book」と書かれた本だった。

「葉月」という名前に反応し、胸がドクンと大きな音を出す。


(ま、まさか、この『葉月』って・・・)


「サクヤの隣を歩くなら、これ以上参考になる本ってないと思うから。これで勉強するといいんじゃないかしら」

「・・・え、えっと・・・?」

「あなた、思ったよりも素材は悪くなさそうだから。これを参考に、もう少し、工夫をすればいいと思うわ」
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