春の花咲く月夜には
私は大きく首を振る。

恥ずかしさは確かにあったけど、嫌なんて、気持ちはひとつもしなかった。

「・・・すごく、嬉しかったよ・・・。恥ずかしさがなかったわけではないけれど・・・、それは、恥ずかしくて嫌だったっていうわけではなくて。・・・なんて言うんだろう・・・、こう、賀上くんの気持ちをたくさんもらって、心がいっぱいになったからだというか・・・」


(ああ・・・、もう、相変わらず上手く伝えられない・・・)


自分の言語化能力が、もどかしくてたまらなかった。

今の私の感情を、感覚として、このまま伝えられたらいいのに。

「・・・だから・・・、すごく、嬉しかった。どうもありがとう・・・」

「・・・うん」

前髪を軽く掻き上げて、賀上くんは、照れくさそうに頷いた。

その表情に、私の胸はキュンと鳴る。

「・・・いつ頃から、作ってくれてたの・・・?」

「いつ頃・・・、いつかな。好きになった時からなんとなく・・・、付き合う前、一緒にスタジオ行った時には、作り始めてた記憶はあるけど」


(スタジオ・・・、ギターを教えてもらった時だ・・・)


私が、彼を好きだと認識した日。

それほど時間は経っていないのに、懐かしいような感覚がする。

「じゃあ・・・、その頃から、ずっと考えて・・・、練習してくれてたんだね・・・」

私は、歌詞を書いたり曲を作ったりなんてできないし、それがどれだけ大変なのかもわからないけど。

きっとたくさん考えて、時間を使って、作ってくれたんだと思う。

ありがとう、の気持ちを込めて伝えると、賀上くんは、戸惑うような顔をした。

「あ、いや・・・、曲は確かに、その頃から考えてはいたんですけど。歌詞は・・・、この前の月曜に書き直そうって思いはじめて、木曜とかにできたんで・・・、時間をかけて作ったっていうわけでもなくて」

「・・・、木曜って・・・、一昨日?」

「・・・はい。だから、ほんとに3、4日で書いたっていう」


(そ、それもまたすごいけど・・・)


数日で、歌詞を書き直してしまうだなんて。

私が「ずっと」という言葉を使ったからだろう、彼は、時間をかけたわけじゃないのだと、申し訳なさそうにしているけれど、それはそれで、とてもすごいことだと思った。
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