春の花咲く月夜には
「でも・・・、どうして急に書き直したの?直したってことは、書いてたものがあったんだよね・・・?」

期間が一週間もない。土曜日に、ライブが決まっている状態で。

できていたものを書き直すって、大変だろうし焦るだろうし、勇気がいると思うのだけど・・・。

私が首を傾げると、賀上くんは「ああ・・・」と言って、考えるように続きを話す。

「紗也華さんに言われたんです。月曜日・・・ライブ来てほしいって誘った時に、心春さんのこと・・・、『前の恋愛がかなりつらかったみたいだから、大切にしてあげて』って」

「えっ・・・」

「あ・・・、詳しいことはそこまで聞いてませんけど・・・、裏切られたというか・・・、それで、心春さんがつらい思いしたっていうのは聞いたから。『前の恋愛』・・・って、相手はあの先生ですよね・・・?」

「・・・・・・」

ここ最近、先生を思い出すことなんてなかったけれど。

思い出し、苦い気持ちで私はコクリと頷いた。

「・・・ですよね・・・。心春さん、あの人のこと結構引きずってる感じがしたし、色々あったんだろうとは思ってましたけど・・・。それで・・・、オレも、自分なりに思うこととかあったから。それまでに書いてた歌詞は、それこそ違う気がしたし、書き直そうって考えて」

賀上くんは、そこで一旦話を止めた。

そして、その時の記憶を重ねるように続きを話す。

「・・・けどまあ、慣れないことだし才能あるとかでもないし、簡単になんて書けなくて。結局、ありきたりな言葉になったかなとか、ちゃんと心春さんに伝わったかなとか・・・、考えると、今も不安なんだけど」

「・・・・・・」


(・・・そんなこと・・・)


賀上くんのことを寝不足のようだと言っていた、紗也華の言葉を思い出す。

きっと彼は、紗也華に話を聞いてから、ずっと・・・曲のことを考えてくれていたんだと思う。

どんな歌詞にしようって。どうしたら伝わるだろうかと。

この部屋で、仕事が終わった後にギターを弾いて。

私のことを、考えながら。
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