春の花咲く月夜には
「・・・後でじゃなくて、早急にお願いします。部長にも早くするよう言われてるんで。それ、オレが代わりに預かりますから」

「あー・・・、そうなの?んー・・・、しゃーない、わかった。じゃあまたね、向居さん」

増田さんは私に笑顔で手を振ると、渋々、といった様子でその場を去った。

増田さんと入れ替わるように、咲也が私の前に進み出る。

「じゃあ・・・、それ、預かります」

「あ、うんっ。お願いします」

そう言って、咲也に封筒を手渡すと、彼は優しく微笑んだ。

・・・いつもの咲也だ。

さっき苛立っていたように見えたのは、気のせいだったかもしれない。

「じゃあ、私はこれで・・・」

「はい。・・・また後で」

最後は声を小さくし、咲也は私の耳元で囁いた。

彼の息が微かに触れて、私の耳と、頬が熱くなるのを自覚する。


(・・・絶対に今、顔赤い・・・)


そう思い、その顔を誰にも見られないよう、私はすぐに後ろを向いた。

けれど。


(さ、紗也華・・・!)


なぜか毎回、こういうタイミングで紗也華と遭遇する不思議。

紗也華は、咲也の背中をにまにましながら眺めた後に、私に楽しそうな笑顔を向けた。

「賀上くん、警戒心バリッバリだね」

「えっ!?」

「やー、おもしろいというか、かわいいというか・・・」

「な、なにが・・・?」

「まあまあ。なにはともあれ社内恋愛を楽しみたまえよ」

「じゃあね~!」と言いながら、紗也華はマーケティング部の中へと入っていった。

わけがわからず、私は首を傾けた。


(・・・話が全く見えないんだけど・・・)


少しモヤモヤしながらも、仕事中だし、とにもかくにも、これから郵便局に行かなきゃいけない。

気持ちを切り替え、足を踏み出そうとしたその時に、私はふっと、後ろを向いた。

すると同じく、こちらを振り返った咲也と目が合って、お互いに、少し驚いたような顔をした。

ーーーただの偶然だと思う。

それでも、こういう些細なことが嬉しくて、幸せだなって思いが募る。

私が小さく会釈して、彼が優しく微笑んだ。

胸の中に、ぽっと明るい灯がともる。

・・・残りの仕事もがんばろう。

今、そんなふうに自然と思いが湧いたのは、間違いなく、彼のおかげだと思う。









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