春の花咲く月夜には
ここ最近、金曜の夜はどちらかの家で過ごすことが多くなっていた。

先週は彼の家だったので、今週は、私の家に来ることに。

私の家は、咲也の家より確実に物が多いので、居心地が悪いんじゃないか・・・と思うけど、咲也はなぜか落ち着くらしい。

もしかしたら、それは「実家感」があるのかもしれないけれど。

とにもかくにも、彼が落ち着くのなら私は嬉しい。

「心春さん、ジャケットここに掛けていい?」

「あ、うんっ。・・・そうだ、いつものところ、別のものがかかってたよね」

「ああ、いや、どこでもいいんだけど。じゃあ、ここ借りる」

「うんっ」


(そうだ・・・、昨日のスカート、雨で少し濡れたから、あの場所に干してたんだっけ・・・)


会社帰り、咲也が泊まりに来た時に、スーツを掛けてもらう場所は、なんとなく、私の中で「あの場所」だって思ってる。

廊下の一角にある、壁掛けスペース。

私の家で、彼専用のもの、彼を感じる場所が、確実に・・・少しずつだけど増えていた。

「・・・あっ、そうだ。咲也、ワイン好き?」

「んー・・・、そんな飲まないけどわりと好き」

「ほんと?この前、妹の旦那さんがお土産にくれたんだけど・・・、私、ワインはあんまり飲めなくて。よかったら飲んでほしいんだ」

「ああ。じゃあ、もらおうかな」

「うん。・・・あ、そういえばワイングラスって、どこにしまってたかな・・・」

話しながら、私はキッチンの中の食器棚、シンク下・・・と、引き出しや戸棚を開けて、以前、親戚の結婚式の引き出物でもらったワイングラスの在りかを探る。

シンクの上は、背伸びをしても私は絶対に届かないので、脚立を出して上に昇った。

「わっ、心春さん、オレやるし」

「大丈夫。これに乗れば届くから・・・」

「いや・・・、なんか見ててヒヤヒヤするし・・・、代わります」

そう言うと、咲也は後ろから私をひょいっと抱き上げて、脚立から、床の上にゆっくり下ろした。

・・・なんとなく、子どもに戻ったような気分になった。

けれど、両脇と、胸の辺り・・・、彼に抱えられた感触に、私の胸は、こっそりとドキドキしていた。

「・・・どれかな。これ?赤い箱のやつ」

「う、うん。そう・・・」
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