春の花咲く月夜には
「・・・うちの部で、心春さんのこと気に入ってる先輩が何人かいて。今日もかわいいって騒いでたし・・・、スタイルもいいとか結構ガン見してたから。あんまり・・・、彼女の身体とか、ジロジロ見られたくないっていうか」

「・・・っ!?」

そんな視線に気づかなかった。

うちの会社で、働き始めて早6年。

社内でそんな視線を感じたことは、今まで一度もなかったけれど。

「・・・通勤用にって、買ってた服なら申し訳ないけど」

「う、ううん。服とか体型とか、そんなに見られてる意識がなかったんだけど・・・。もし、ほんとにそうなら、そういうのは私もイヤだし・・・」

試着した時、スタイルが良く見える気がして買った服。

客観的にもそう見えるなら、よかったのかもしれないけれど・・・、状況としては複雑だった。

そしてこれは、私のスタイルがいいわけじゃなく、スカートのデザインがとてもいいのだけれど。

「・・・『ほんとに』って、ほんとだし。心春さん、もう少し自覚してほしいんだけど・・・。増田さんとか、今日、超ガン見してたの気づかなかった?」

「・・・・・・、う、うん」

「・・・マジか・・・・・・。なんか、すげぇ不安になってきた・・・」

私の後ろで、咲也が大きく息を吐く。

その吐息が耳にかかって、私の身体がビクリと震えた。

「・・・心春さん、増田さんに『仕事の相談がある』とか・・・、もっともらしいこと言われて食事に誘われたら、行っちゃいそうで怖いんだけど」

「い、行かないよ。増田さんが私に仕事の相談とか絶対必要ないと思うし・・・、もし、誘われたとしても、増田さんはちょっと軽そうだから・・・、さすがに私も警戒するよ」

「・・・じゃあ、一ノ瀬さんは?」

「一ノ瀬さん・・・、一ノ瀬くん?」

「うん」

「・・・・・・」

私と紗也華と同期入社、現在マーケティング部の、一ノ瀬くんの顔を思い出す。

一ノ瀬くんは、数年間、他県に転勤していたこともあり、同期といえど、あまり関わりがなかったけれど・・・、しっかりしていて、穏やかで真面目な印象がある。
< 207 / 227 >

この作品をシェア

pagetop