春の花咲く月夜には
「・・・そ、そうだな・・・、一ノ瀬くんから『相談がある』って言われたら、確かにちょっと気にはなるけど・・・、同じ部で同期だし、私じゃなくて、紗也華に相談した方がいいって言うかな」

「・・・『事務のことで聞きたい』とか、相談があるって言われたら?」

「・・・」


(・・・う、うーん・・・、実際ありえなさそうだけど・・・)


万一あったと仮定して、その時の状況によるかもしれない。

いずれにしても、紗也華も誘って3人で・・・と、答えるんじゃないかと思う。

「・・・迷ってる」

「や、ありえなさそうなことだから、逆にちょっと悩むというか」

「・・・ありえなそうって。心春さん、オレ以外の男、もっと警戒してほしいんだけど」

そう言うと、咲也は私の耳と、頬に何度もキスをした。

いつもより、荒く、熱っぽく感じる行為に戸惑う。

けれど、後ろから抱きしめられている状態で、それをかわすこともできない。

「・・・オレが彼氏だってこと、もう、会社で言っていい?」

「えっ・・・!?」

「・・・・・・、やっぱいいや。言わなくても、男がいるってわからせる」

そう言うと、咲也は私の首にキスをした。

強く、長く。

私の肌から、甘い蜜を吸い取っていくかのように。

「・・・っ、さ、咲也、あんまり首は・・・」

「・・・、わざとやってる。目立つとこ」

「!」

肌に残る、キスマーク。

季節は秋になっているけれど、それなりに首元が開いた服はまだ着るし、そうじゃなくても、どういうタイミングで見えてしまうかわからない。

それはやっぱり、恥ずかしいことだと思った。

「・・・や・・・、咲也、困る・・・」

「・・・・・・」

「・・・、さ、咲也・・・っ」

彼のキスから逃れたいって思うけど、この体勢からは逃れられない。

それでも、できる限りで肩をすくめるように動かすと、咲也は、はっとしたように私を解放してくれた。

「・・・、ごめん・・・」

静かな声でそう言うと、咲也は私を自分の方へと振り向かせ、そのままぎゅっと抱きしめた。

咲也の胸に、顔をうずめるようになり、彼の心臓の音が、私の耳に大きく伝わった。

「・・・やっぱオレ、子どもだな・・・。心春さん困らせて」

「・・・、咲也」
< 208 / 227 >

この作品をシェア

pagetop