春の花咲く月夜には
「・・・そうだよね、初めて会うし・・・。でも、大丈夫だよ。奈緒も央登さんも気さくで話しやすいと思うし、咲也に会うの、2人ともすごく楽しみにしているみたい」

「・・・そっか。それはありがたいけど・・・、オレ、普通に話せるかな・・・」

咲也は多分、人見知りはしない方だと思うし、誰が相手でもフラットに話せるタイプだと思う。

奈緒も明るく気さくだし、央登さんも優しくて穏やかでいい人だ。

だから、実際に会ってしまえば安心するとは思うけど・・・。


(逆の立場で考えたら、私も絶対緊張するもんね・・・)


咲也には、8コ上のお姉さんがいたそうだけど、咲也が18歳の時、病気で亡くなったのだと聞いている。

だから、私が彼のお姉さんに会うことは叶わないけれど・・・、もし、会うことができたとしたら、やっぱり、とても緊張すると思うから。

「・・・どこかカフェでも入って、少し落ち着いてから行く?」

「・・・いや、大丈夫。待たせても申し訳ないし・・・、余計に緊張してくる気がするし」

「そっか・・・」

どうしたら、咲也の緊張を緩ませることができるだろうか。

私はしばらく考えた。

何か、いい方法は・・・。


(・・・・・・、うん)


「ここはもう、気合いでなんとかがんばろうっ」

「え?」

ここまできたら、あとはもう、気合いが大切かもしれない。

これぐらいしか思いつかない自分が情けないけれど・・・。

私が両手でガッツポーズをとって見せると、咲也は、緊張がほどけたように「ははっ」と笑った。

「確かに。そこまで(りき)むことじゃないかもだけど。確かに気合いは大事だな」

「うん。あっ、そうだ。あとは、手のひらに3回『人』って書いて飲むのもやってみるとか」

「ああ・・・、いいね。初めてライブした時やったかも」

咲也は笑って、左手に、「人」の文字を右の指で3回書いた。

そしてそれをゴクンと飲み込む。

「・・・・・・」

「どう?」

「・・・・・・すげぇ。なんか、大丈夫な気がしてきた」

「ほんと!?すごい、効果ありだね」

2人で笑った。

気合いの効果もあるかもだけど。

ここぞという時、定番のおまじないというものは、結構頼りになるようだった。









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