春の花咲く月夜には
「・・・もちろん、その答えは心春さん次第なわけだけど・・・」

心臓が、ドキドキと音を出している。

私は、彼の次の言葉を待った。

「オレはまだ、全然頼りないと思うし、実際、フラフラしてる気もするし。けど・・・、オレは、心春さんとずっと一緒にいたいと思ってて。だから・・・、がんばるんで、プロポーズするの、もう少しだけ待っててもらえませんか」

「・・・!」

これは・・・、プロポーズの予告ということでいいのだろうか。

彼が今、結婚を考えているなんて夢にも思わなかったから、私はとても驚いた。

「あ、えっと・・・、『待っててほしい』って、これも、5年10年ってわけじゃなくって。できればあと1、2年・・・、心春さんが30歳になる前にできたらなって思ってる」

「っ、・・・うん・・・っ!」

嬉しかった。

そう、考えてくれていることが。

驚きと、嬉しさで、私は・・・、胸がいっぱいだった。

「それまでに、オレにこうなっててほしいとか・・・、理想があったら近づくように努力するから。このくらい出世しててほしいとか、貯金がどのくらいあればいいとか・・・、そういう希望、心春さん、なにかありますか」

改まった様子で咲也が言った。

とても現実的な質問に、私は一度、瞳をぱちりと動かした。

私が想像している以上に、咲也は、この先のことを考えてくれているのかもしれない。


(・・・でも、その気持ちだけで、もう十分・・・)


「・・・ううん。何もないよ」

「え!?何も」

「うん」

今でも彼は、私にとってもったいないって感じるくらいの相手だし、これ以上、こうなってほしいなんて望みは抱いていなかった。

貯金も自分で一応しているし・・・、結婚資金というのなら、これから2人で貯めればいいと思うから。


(・・・あっ、でも・・・)


「そうだ・・・。ひとつ、気になることはあるかもしれない」

「っ、なんですか」

緊張気味に、咲也が姿勢を整えた。

私は「うん」と言って、続きを話す。

「咲也は・・・、ゆくゆくは会社を辞めて、また音楽の道に進みたいとか・・・、プロとして活動したいとか・・・、そういう夢があるのかな」

咲也は多分、私に「安心」や「安定」を与えようとしてくれている。

けれど彼がこの先に、また音楽だけでやっていきたいって希望があるのなら、私のために、その希望は失くしてほしくないと思った。
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