春の花咲く月夜には
「もし、『Tロケ』が再デビューして、沢山の人に聞いてもらえたら、それはめちゃくちゃ嬉しいし、望むことには間違いないけど・・・。シゲさん見てると、今のままでもいいのかもって、自然と思えてくるっていうか・・・・・・。そばで聞いてくれてる人がいて、応援してくれる人がいて、好きな人たちがずっと周りにいてくれて。それって普通にすごいと思うし、すごく幸せなことだよなって」

とても静かな優しい顔で、咲也が言った。

私はただ、彼の言葉に耳を傾ける。

「オレの場合、プロとして続かなかったって経験が大きいのかもしれないけど・・・、音楽ずっと続けていくなら、メンバー全員が、楽しくて元気でいるのが一番だなって思うから」

「・・・・・・」

ーーーそういえば、付き合う前・・・初めて飲みに行った時に、彼は、同じようなことを言っていた。

一度、「T's Rocket」が解散したのは、当時、所属していた事務所とのトラブルが原因で、メンバーの一人が体調を崩したからだったんだよね・・・。

人それぞれ、大切にしたいと感じるものは違うけど、咲也にとっては、「バンドメンバー全員が、元気で楽しく活動できること」が、一番大事なのだと思う。

「・・・まあ、自分に言い聞かせてるっていうか、強がってる部分ももちろんあるとは思うけど。オレの場合、サラリーマンが結構気に入ってるっていうのも大きいな」

「そうなの?」

「うん。他のやつらも、今の仕事結構好きそうなんだよなー。だから余計、どっちに転がってもいいって思うのかもしれない」

「・・・・・・」


(・・・そっか・・・)


これまでに、咲也や、メンバーのみんなが経験してきた様々なこと。

夢見てた、華やかな世界に身を置いて、だけど楽しいことばかりじゃなくて、そこから離れる道を選んだ。

けれどまだ、もう一度、捨てきれないでいる夢がある。

ーーー望む未来と現実と。

ずっと大切にしたいと思うこと。

好きな人たちや、応援してくれている人たちのこと。

そして、今の仕事に対する気持ちーーー・・・。

咲也はきっと、私との未来も考えて、今もまだ、たくさん迷って・・・迷いながらも進んでるんだ。
< 223 / 227 >

この作品をシェア

pagetop