春の花咲く月夜には
2人でカフェの外へと出ると、辺りはもう、夜の気配に包まれていた。

お店で温まっていた身体の熱は、あっという間に外気に馴染む。

二の腕のあたりを軽くさすると、咲也は私の肩を抱く。

「・・・寒い?」

「あ、うん。でも大丈夫。ありがとう・・・」

添えられた彼の手が、私の肩を温める。

そこから、腕を伝って全身も・・・、心もあたたかくなっていく。

「今日のお店、もつ鍋が美味しいんでしょう?温まりそう」

「ああ・・・、うん。ショウ曰く、日本一とか言ってたな」

「ほんと?それは楽しみ・・・」

ショウくんが勧めてくれた今日の店。

私も咲也も初めてで、すごく楽しみにしてるんだ。

ーーー駅の前を通過して、少し暗い路地に入った。

ふと、夜空を見上げると、絵に描いたようなまあるい月が、私の瞳に飛び込んだ。


(・・・きれいだな・・・)


ゆっくりと夜道を歩きつつ、私は、満月の光をじっと見つめた。


『春の花咲く月夜には・・・』


以前、彼が歌ってくれたフレーズが、頭の中に、ふいに流れた。

「・・・どうした?」

夜空を見上げながら歩く私に、彼が優しく問いかけた。

私は「うん」と頷いて、まあるい月を指さした。

「月、きれいだなって思って・・・、咲也が歌ってくれた曲のこと思い出してたの」

「!」

「そ、そっか・・・」と呟きながら、彼は照れているような様子を見せた。

月の明かりと街灯が、赤くなった彼の頬を照らしてる。

「あの『月』は・・・、こういう月を思って書いてくれたの・・・?」

いつか、聞いてみたいと思っていたこと。

恥ずかしくてなかなか聞けなかったけれど、今の私は、不思議なくらい、自然と彼に聞いていた。

「・・・まあ・・・、そうかな。心春さんを好きになった時に綺麗な月が見えたから。それで」

「・・・そっか・・・」

きれいな満月。

こんなきれいな月が見えた日に、咲也は、私を好きになってくれたんだ。

それはとても、素敵なことだと思った。

「・・・へへ・・・」

「ん・・・?どうした?」

「・・・なんか、すごく嬉しいなって思って」

「・・・、そっか」
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