春の花咲く月夜には
彼が笑った。

上手く言葉にできないけれど、嬉しくて、とても幸せな気持ち。

咲也の曲には、こんな気持ちにさせてくれる力があるんだな。


(・・・あ、そういえば・・・)


初めてライブに行った時、私が好きだと伝えた曲も、咲也が作った曲だった。

あの曲も、大切な誰かを思って書いたような歌詞で・・・、すごく素敵な曲だった。


(・・・・・・)


「・・・咲也」

「ん?」

「その・・・、咲也が初めて作ったって言った曲・・・、あの曲も、誰かのために作ったのかな」

聞いてしまったその後で、私はすぐにハッとした。

心の奥で、ずっと気になっていたことだけど、答えを聞いてしまったら、後悔しそうなことなのに。

「・・・ああ・・・、あれはその・・・・・・」

言いにくそうに、咲也が言葉を詰まらせた。

やっぱり・・・、と、私は、美しい元カノの姿を頭に浮かべた。

「・・・まあ、一応、姉に向けて。・・・って、ここだけ聞くと、なんかシスコンぽくて嫌だけど」

「・・・、お姉さん・・・」

「うん。って言っても、亡くなった後に作ったから。本人には聞いてもらってないけどね」

切なそうに咲也が笑った。

だけどもう、その気持ちすら、受け入れているような表情で。

「『Tロケ』のデビューが決まった後に、病気がわかったんだけど・・・、それからあっという間でさ。色々言わなきゃいけなかったのに、言えなかったことたくさんありすぎて。どうしようもなくて・・・・・・、なんとなく、曲とか歌なら、届かないけど届くんじゃないかみたいなこと思って作ったんだよなー・・・」

「完全に自己満足だけど」と苦笑して、咲也は、夜空に浮かぶ月を見上げた。

私は、彼の身体に寄り添って、「そんなことないよ」と、強い気持ちで言葉を伝えた。

「絶対、お姉さんに伝わってると思う。私も・・・、咲也の曲は、天国とか、空の上までちゃんと届くと思うから」

私のために彼が作ってくれたあの曲が、私の心に響いたように。

空の上まで・・・お姉さんにも届いてるって、信じたい。
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