春の花咲く月夜には
ーーーーと、お気に入りだった曲が脳内で流れはじめた瞬間に、学生時代の光景が、ぶわっと一気に蘇る。

通学路を彩る並木道。

歴史の詰まった、レンガ造りの綺麗な校舎。

みんなの楽しそうな声。

上履きが床を鳴らす音。

踊り場のある階段の上、白く、長い廊下があって。

顔を上げたその先に、私の瞳に映るのはーーーー・・・。


(・・・っ!)


ーーー別に、並木道や校舎や廊下、友達のことを思い出すだけだったら構わない。

けれど、その先にどうしても見えるあの人の・・・先生の面影が、私の胸を締め付ける。

「・・・心春さん?」

呼びかけられて、私ははっと我に返った。

せっかく楽しい話をしていた時に、先生を思い出すなんて・・・。

私の好きな曲たちは、どうしたって学生時代を・・・先生との思い出たちを切り離せない。

「・・・大丈夫ですか。急に顔色悪くなったけど」

「あ・・・、うん、ごめん。ちょっと、学生時代を思い出したというか」

「・・・・・・」

賀上くんは、悩むように私のことをじっと見た。

そして、踏み込むべきか、踏み込まないでいるべきか、迷いながらも問いかけてきた。

「・・・その・・・、つらかったんですか?学生時代」

「あっ、ううん。学生の頃がつらかったって訳ではなくて。結構楽しかったんだけど・・・、なんていうかな、大人になってから、つらい思い出に変わってしまった部分があって。だから・・・、うん、思い出して、ちょっと感傷に浸ってしまった」

へへ、と、誤魔化すように少し笑って、私は気持ちを切り替える。

今、この状況で、賀上くんに先生のことを話す勇気は出なかった。

「・・・でも、賀上くんはすごいよね。学生時代からギターを続けているなんて。私も、なにか楽器が弾けたらなって憧れたこともあったけど・・・、結局、リコーダーとかピアニカレベルで止まっているから」

「ピアニカって」

「久しぶりに聞いた」と言って彼が笑った。

少し暗くなっていた雰囲気が、彼の笑顔で明るくなってほっとする。
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