春の花咲く月夜には
ウォンバットカフェの話の後で、これからランチに行く場所はどんなお店なのだろう・・・と、少しドキドキしていたけれど、賀上くんが連れてきてくれたのは、いたって普通の老舗の洋食屋さんだった。

住宅街の一角の、目立たない場所にあるけれど、スタジオから近いということで、一人での練習帰りにたまに立ち寄る店だそう。

「みんなと練習した後には来たりしないの?」

「そうですね、ここにはいつも1人で来てます。メンバーで行くなら駅前のファミレスとか牛丼屋の方が気楽だし・・・、この店はお気に入りなんで、できれば秘密にしておきたいのもありますね」

「・・・、そうなんだね・・・」


(そんな秘密にしたい場所、私には教えてくれるんだ)


「・・・・・・」

なんともいえない特別感。

胸が小さく高鳴った。

彼の些細なひと言で、ドキドキしたり嬉しくなったり、私の胸は忙しい。



店に入って、奥まった4人掛けのテーブル席に案内された後、私はグラタンとサラダのセットを、賀上くんはハンバーグセットを注文した。

しばらくして届けられた熱々の鶏肉とポテトのグラタンは、ソースがとてもおいしくて、賀上くんのお気に入りになるのも納得だった。


(料理がおいしいのはもちろんだけど、アンティークな感じのインテリアも素敵だし・・・、雰囲気も落ち着いていていいもんね)


確かに、秘密にしたくなるのもわかるかな。

いいお店だからネットで紹介されていそうだけれど・・・、心情としては、秘密にしておきたいような。

考えながら、スプーンですくったジャガイモを、ふーふーと息を吹きかけてから口に運んだ。

さっき食べた鶏肉もおいしかったけど、ジャガイモも、ホクホクしていてとてもおいしい。

「・・・美味しいですか?」

ふいに問いかけられので、私は視線を上げて彼を見た。

こちらを向いた彼の目は、とても甘くて優しくて、ドキリと胸の音が鳴る。
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